大人ごっこ

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あらすじ
登場人物4人の恋愛もの
4人は小学生時代に知り合って以降長らく友人として関係を維持している幼馴染

登場人物

春希(はるき) ♂ 30歳

・会社員
・見た目は良く、モテる
・夏美とは長らくセックスフレンドの状態
・ただし夏美のことは愛している
・酒は弱い

夏美(なつみ) ♀ 30歳

・会社員
・春希とは長らくセックスフレンドの状態
・春希のことは愛している
・幼少期の病気により子供が出来ないため春希と真剣に付き合うこと自体は拒んでいる
・火酒が好き

秋也(あきや) ♂ 30歳

・音楽プロデューサー
・それなりに売れてはいるが会社の意向にあった音楽しか作れないことに膿んでいる
・過去に離婚歴があり恋愛には興味が薄い
・また、その経験から踏み込まれることを好まない
・バーに来たときのみ葉巻のコイーバを嗜む

冬子(とうこ) ♀ 30歳

・フリーター
・春希と夏美の事情を両者ともに詳しく知っている
・長らくシンガーソングライターとしてweb上ではそれなりの人気を誇る
・ただし音楽性が万人受けしないこと、自分の歌いたい歌を歌いたいことを理由にメジャーデビューは考えていない(話がないわけではない)
・秋也が好きだが踏み出せないでいる。

マスター ♂・♀

・秋也行きつけの店のマスター

配役表

春希 ♂:
夏美 ♀:
秋也 ♂:
冬子 ♀:
マスター ♂・♀:

本編

(居酒屋入店 )
(電子チャイム音)
(うるさめのガヤ ここから)↓

春希:「悪い悪い、急に残業長引いちゃって」
秋也:「遅ぇ、呼び出したお前が1時間以上遅刻とかマジ有り得ねえだろ、とりあえずここの払いはお前な」
春希:「うえぇ、悪かったって、あ、すみませーん生一つで~」
夏美:「え、何? 今から頼むの? そろそろあんた置いて次行こうかって話してたところなんだけど? 」
春希:「えぇぇひどくね? つか二人とも俺の扱いひどすぎね? 」
夏美:「ひどくない」
秋也:「ひどいのはお前だ」
冬子:「もう慣れたけど」
春希:「うっぇ⁉とこちゃんまで言う? うー、ごめんってば」

(春希届いたビールを受け取る)

秋也:「とりあえずそれちゃっちゃと空けろ、次行くぞ次…」

(春希秋也の言葉が終わるのを待たず飲みほす)

春希:「んくっっはぁーーーーーーー! めっちゃ走ったから超うまいわ! 」
冬子:「ちょっと! 大丈夫? はるくんそんなお酒強くないのに…」
春希:「だぁいじょうぶだいじょうぶ、ほら次行くんだろ? 」
秋也:「なんなんだあいつ? なんかあったのか? 」
冬子:「たまにあるよね、こういうこと…なっちーなんか聞いてる? 」
夏美:「……」
秋也:「まあいい、いくぞ」

(うるさめのガヤ ここまで)↑

(間)

冬子M:春希の様子、そして夏美の様子から、私はなんとなく事情を察した。とはいえ、私からは何も言うこともできることもない。歯痒いけれど、これはこの二人の問題だから。

(入店ベル)
(BGM:ゆっくり目ピアノジャズ)

マスター:「いらっしゃいませ、おや、ご無沙汰ですね」
秋也:「最近一人の時間がなかなか取れなくてね。マスター、席、四つ空いてる? あとチェイサー、デキャンタで」
マスター:「かしこまりました、どうぞこちらへ」
冬子:「わぁ~オシャレなお店ぇ、さすが音楽プロデューサー、私こんなお店恐れ多くて来れないよ」
秋也:「別にここは仕事で使ってる店じゃない、いつも一人で来てる。たまたまさっきの店から近かったからな、できればあんま人は誘いたくなかったんだけど」

(マスターに促されながら秋也と冬子奥のボックス席に着く)
(入店ベル)
(遠くで)

秋也:「…………あれじゃあな……」
マスター:「いらっしゃいませ」

(言いながら秋也は遅れて入店してきた春希と夏美を見やる。春希は夏美に肩を借りている。)

夏美:「ちょっと! あんたいい加減にしなさいよ? よくあれ一杯でそこまでなれるわね、っちょっと」
春希:「らってさぁ…いって、なっちぃ、もうちょっと優しくしてよ」
夏美:「十分優しくしてますー。つかさっさと先に出たと思ったら、店の横でぶっ倒れてるんじゃないよバーカ」

(春希英語で流暢にDomestic Violence)

春希:「いってぇ、なっちぃそれDV、Domestic Violence」
夏美:「別にあたしら何でもないでしょ、DVでもないわよただのバイオレンスよ、つかなんでそこだけ流暢なんだよ」
秋也:「お前ら、いい加減にしろ、ここはそういう店じゃねぇんだよ」

(マスターがデキャンタで運んできた水を春希の前に置かせ、横を向きながら呟く)

秋也:「……ったく、だからこいつらは連れてきたくなかったんだ」

(マスターが軽く秋也の肩に手を添え、微笑んでからカウンターの裏に戻った)

秋也:「っ……まあいい、とりあえずそれ飲め、ハルキ、今すぐ、全部だ」
春希:「ふぁい」

(春希が水を飲み干すのを見届けて、秋也が口を開く)

秋也:「それで? 本日私共は何のためにご招待に預かったのでしょうか? 」
春希:「ふぇ? いやー……ほら、久々にみんなと飲みたいなぁって思っただけで……」

(夏美おもむろにスマホを取り出し文面を読み上げる)

夏美:「『やっほーなっつぃ! 俺ついにまたまた彼女出来ちゃった! なんと22歳の大学四年生、このみちゃん! 超若くてかわいいの! これでお前との爛れた関係ともおさらばだな! 』」
春希:「うぇ!? 」
冬子:「うわー……やっちゃってるねー」
秋也:「えぐいな……」
夏美:「どうせこれ絡みでしょ? また振ったか振られたかして、さすがに私のこと呼び出すわけにもいかず、4人ならどうにかなるかも~とでも思ったんじゃないの? 」
春希:「ぐ……」
夏美:「つかこれ来たの1週間前なんだけどね? 」
冬子:「短っ! えー、ハル君飽きっぽいねぇ……幼馴染でもこれはさすがにちょっとひくなー」
秋也:「つまり俺とトーコをダシに使って夏美との間を取り持たせようとした、っていう理解であってるか? 」
春希:「いや、そんらつもりらぁ……」
秋也:「じゃあどんなつもりなんだよ、……っつうかお前これ何度目だ? 」
夏美:「えーっと、京子ちゃん、はすみちゃん、亜希子ちゃん、葵ちゃん、秋穂ちゃん……のときはこういうのなかったか、で、うーんっと……瑞樹ちゃん、智花ちゃん、香ちゃん……」
秋也:「お前もお前でよく覚えてるな……」
夏美:「そりゃ毎度毎度誰かと付き合う度に、こういう手の込んだ嫌がらせメール来てたら、嫌でも覚えるわ」
秋也:「毎度なのかよ、ハルキ、お前マジいつか刺されるぞ、やめろよ? 幼馴染で殺し合いとか」
夏美:「はぁ!? なんであたしがこんな奴刺さなきゃいけないのよ、『爛れた関係』のこんな奴刺したって何の得もないわ」
冬子:「なっちーは慣れすぎ」
春希:「べつりぃいやがらせじゃなくてぇ……」
秋也:「じゃあなんなんだよ、まぁ、とりあえずここもお前もちな」

(いいながら秋也はカウンターに向かって人差し指をたてる)

春希:「ふぁい……」
マスター:「ご注文ですか? 」
秋也:「この馬鹿にソーダ、俺はオールドパルを頼む、あとコイーバのシガリロを」
冬子:「お、じゃああたしベルベットハンマー」
夏美:「あんたらはなんでそういうお酒の名前が次々出るのよ……じゃあ、わたしはあれかな、カンパリオレンジ」
秋也:「火酒以外飲むの珍しいな、いいウィスキーも多いぞ、ここは」
夏美:「ん、いいよ、どうせこいつ多分もう少し酔いが進むし、結局あたしが送っていかないといけないでしょ」
冬子:「なっちーもなっちーでハル君の事甘やかすよねー」
夏美:「腐れ縁だからねー、でもさ、なんだかんだ言って、秋也とトーコだって結構この馬鹿に甘いと思うけど? なんとなくこういう流れだってわかってたでっしょ! 」

(夏美は意識の確認がてら春希の頭を殴る)

春希:「……んでっ、Zzz」
冬子:「まー、ハル君は残念だけどイケメンだしね、それにやっぱりなっち―とハル君が話してるの見るの、楽しいし。あ、きたきた、ありがとうございまーす。まあ、今日はあんまり見られそうにないけど」
秋也:「夫婦(めおと)漫才が面白くて来てるのは俺も認める……けどな!」

(秋也も意識の確認がてら春希の頭春希の頭を殴る)

春希:「……んぁっ、Zzz」
秋也:「幼馴染でもあるし、4人で集まって飲むのが居心地がいいっていうのもある。まぁ、この店を知られたのは誤算だったが」
夏美:「別に漫才してるつもりはないわよ……」
冬子:「夫婦(めおと)は否定しないんだね~」
夏美:「とこちゃーん、あんた後で覚えておきなさいよ?」
冬子:「こわー、秋也君たすけてぇ? 」

(葉巻の煙を吐きながら)

秋也:「静かに飲め……」
冬子:「ほんっと冷たいよね~、そういえば最近仕事はどう? 」
秋也:「べつに、相変わらず言われたもん作って、あてがわれた人間に歌わせてるだけだよ。面白くもない」
冬子:「そうなんだ……なんか相変わらずって感じだね~」
秋也:「あー、でも最近Webでプロデュースしたいなってやつ見つけて、ちょっと調整中なのが一件あったな。歌詞がやたら重いから万人受けしなそうだが」
冬子:「へぇ、なんかめずらしいね、ちょっと仕事に前向きな秋也君」
秋也:「……まあ仕事自体嫌いなわけじゃないけどな、まだ俺くらいじゃ自分の思うような仕事ができないのさ、けど今回の話がモノになれば、もしかしたら好きなもの作る足掛かりにもなるかもな。そういうお前はどうなんだよ? 最近」
冬子:「んー、相変わらずのフリーター生活、やりたいことあるからさ~。まあ、生活には困ってないよ、やばくなったら、秋也君と結婚する! 」

(秋也苦笑しながら)

秋也:「バツイチに嫌味言ってんじゃねぇよ、だいたい、お前のやりたいことって何なんだ?」

(夏美 かぶせて)

夏美:「実際なんだかんだで私ら奴隷よりは、トーコのほうが稼いでたりするからね、たまに羨ましいわ。ま、私にはやりたいことなんてないんだけどさ」
秋也:「会社員も会社員で大変だな」
冬子:「そうだよねぇ、ハル君も遅れてきたしね」
秋也:「こいつの場合は単に計画性がないだけだろ、後先考えずバカばっかやって」
夏美:「んー、どうなんだろうね、ノリは軽いけど結構よく考えてるみたいよ? 部下にも慕われてるみたいだし」
秋也:「部下が女ばっかり、とかじゃないだろうな」
夏美:「そんなんじゃないって、お堅く見られたら言うこと聞いてくれないから、軽くしたいんだって」
冬子:「まぁ、それもテクニックだよね、実際見た目だけな人ではないよね、昔から」
秋也:「お前ら、随分こいつの肩持つじゃないか」
夏美:「別に、肩持ってるわけじゃないわよ」
秋也:「ま、冗談真に受けてあんな酒の飲み方してこんな体たらくになるくらいだからなっと!」

(秋也春希の頭を殴る)

秋也:「いいやつなのはわかるが、っていうかそろそろ閉店時間だな……」
マスター:「秋也君が珍しくお友達を連れてきたんです、私からもサービスしましょう」
秋也:「マスター? これは? 」
マスター:「ローゼスフロート、程よく時間を過ごすにはいいでしょう」
夏美:「ありがとうございます! ウィスキーカクテル、私結構好きなんだよなぁ」
マスター:「香りが華やかですからね、女性にもおすすめですよ」
冬子:「あ、ほんとだ、美味しい」
マスター:「苦手なお酒よりも、楽しめるお酒を勧めるのも、私の仕事ですからね」
秋也:「マスター、悪いなぁ……甘えるよ、ただこれだけ受け取るのも悪い、コイーバのランセロス、もらえる? 」
マスター:「ええ、折角いらして下さったんで、楽しんでいってください」

(間)

(秋也、春希に肩を貸して支えながら)

秋也:「マスター、こんな時間まで悪かった」
マスター:「いえいえ、またいらしてください、次もまた是非四人で」
秋也:「次は一人で来るよ、毎回こいつらと飲んでたら身が持たん、じゃあ」
夏美:「ごちそうさまでした! 」
冬子:「おいしかったです 」

(階段を降りる音)

(4人が階段を下り、ビルを出ていくのを見届けながらマスターは呟く)

マスター:「『今宵もあなたを想う』……秋也君も存外足元は見えないものですね」

(足音)
(ドアベル)
(鍵を閉める音)

(間)

(足音x4)

冬子:「いいお店だったね、美味しかったし、マスターさんかっこよかった」
夏美:「そうだね、まーたまに行くにはいいかもね、でも私は居酒屋のほうが気楽だなぁ」
冬子:「私は結構好きだったけどなぁ」
夏美:「っていうかトーコ、あんたお酒あんなに詳しかったっけ? 歌うのに差し支えるから―ってずっとお酒飲むの控えてたのに、ベットハンマー、だっけ? よくあんな名前のお酒頼んだね」

(冬子は秋也に目を向けながら少し声のトーンを落として)

冬子:「ベルベットハンマーね、ちょっとだけ調べたんだ、作詞に使いたくて」
夏美:「ふーん、どんな歌? 」
冬子:「うーん、大人の恋の歌かな、詳細は、まだ秘密」
夏美:「そっか、じゃあ楽しみにしとく。なんかあんたの歌さ、私にも結構刺さるっていうか、泣きたい時にすごくいいんだよね、あれ歌ってるのがこんなほわほわした子だとか信じられないわ」

(夏美にも聞こえないよう呟くように)

冬子:「こんなだからなんだけどね……」
夏美:「え? 」
冬子:「うぅん、なんでもない。まぁ次も期待してて、泣きソングの女王ことTokko様がまたなっちーを泣かせてあげる」
夏美:「あはは、期待しとく」
冬子:「でも良かったね」
夏美:「何が? 」
冬子:「ハル君、また戻ってきて」
夏美:「別にあたしらは付き合ってる訳じゃないし、戻ってきたはおかしいでしょ。それに、とっとと他の誰かとくっつけばいいのにって思うよ? 」
冬子:「……ハル君、なっちーのこと本気で好きだと思うけどな」
夏美:「……解ってる……」
冬子:「……」

夏美M:ハルキの気持ちはよく知っている。私もどうしようもなくハルキを好きだ、誰よりも、きっとこれからもずっと。だけど、私にはハルキも知らない秘密がある。そしてそのせいで、ハルキの気持ちに応えるわけには行かなかった。

冬子:「きっとあの事だって、ハル君ちゃんと解ってくれるよ」

(被って)

秋也:「おい夏美! そろそろ変われ、お前ら別方向だろ! 」
夏美:「何でセット扱いよ! 」
冬子:「でも送ってく前提でお酒抑えてたよね」
夏美:「そうだけど……このバカとセットにされんのはなんかムカつくわ。 ほら! バカ! シャキッとしなさい! 」

(ビンタ×n回)

春希:「……ったい! 痛い痛い痛いって! 」
夏美:「起きた? ほら、あんたの部屋行くよ? 」
秋也:「やっぱり、セットじゃねえか……」
冬子:「だよね」
夏美:「あんたらうっさい」
秋也冬子:「あはははは」
春希:「ふぇ? ふぇ? 」
秋也:「まあいい、じゃあここでな。ハルキ、今日は払っといたから今度奢れ」
春希:「おう、今日はごめんな」
冬子:「二人ともまたね~」

(秋也と冬子、会話しながら遠ざかる)

秋也:「さすがに遅い、送る」
冬子:「えー? 泊まってく? 」
秋也:「やっぱ一人で帰れ……」
冬子:「冗談だよ~送って送って」

(去っていく二人の背を見送りながら)

春希:「あいつ、ほんと鈍感だよな」
夏美:「あんたは女慣れしすぎだけどね」
春希:「そうでもないよ、一番大好きなやつの気持ちも、全然解らないしな。なぁ、俺らやっぱ付き合うわけにはいかないのか? 」
夏美M:ハルキのこういう言葉は何年一緒にいても、胸の奥をチクリチクリと苛む。本当はこの言葉を受け入れたい。自分の気持ちを受け入れてもらいたい。けどきっと、それは叶わない願いだから、暴れる動物を檻に繋ぐように、この気持ちは胸の奥にしまっておくしかない。
夏美:「またあんたはそうやって手近で済ませようとする。 だからすーぐ別れるのよ」
春希:「別にそういう訳じゃねえよ」
夏美:「いいから、いくよ」

(間)

―――――――――――――以下ちょっと18禁要素あり飛ばしてもいいです―――――――――――――――

春希:「ただいま~、やっとついたぁ! 歩くと意外とかかるよなぁ、入って入って」
夏美:「なんか随分久々な気がするわ」
春希:「10日ぶりくらい? つか別にいつでも来てくれたらいいのに」
夏美:「彼女のいる男の部屋に彼女でもない女がそうそう来れるわけないでしょ……ちょっと……んっ……」

(春希夏美を壁際に抱きすくめてキス)

春希:「だったらさ、俺と付き合ってくれたらいいじゃん……」
夏美:「無理だって……言って……るじゃない……私たちには、こういう関係があってるよ……」
春希:「俺は……これで……いいと思ってない……」
夏美:「……だったら……やめる……? 」
春希:「いやだ……それに……」
夏美:「……なによ……」
春希:「家に入れた女……夏美以外いないよ……」
夏美:「……みんなに……そんな……こと、言ってるんでしょ……」

(春希、手を止めて夏美の目をまっすぐに見つめる)

春希:「違う。俺は、夏美以外とは考えられない。これまでも、これからも」
夏美:「………………いいよ……そんな嘘……ねぇ……やめないでよ……」
春希:「……嘘……ついてない……」
夏美:「だったら……なん……なのよ……ちょっと、そこ……は……」
春希:「夏美……」

(夏美若干涙声)

夏美:「っ……名前……呼ばないで……」
春希:「夏美っ……」
夏美:「ぃゃ……ぃゃ……」
春希:「愛、してる……」
夏美:「! ふっ……はっ……ぁ……」

―――――――――――――以上ちょっと18禁要素あり飛ばしてもいいです―――――――――――――――

(二人は素肌を触れ合わせる)

春希:「夏美っ……夏美、夏美!」
夏美M:胸の奥が痛む、涙が溢れてくる。春希の名前を呼びたい、今こうして素肌を触れ合わせて感じる愛おしい体温に、形を持たせることが出来たらどんなに幸せか。けどそれをしたらどんな形であれ、きっともう戻れない。得られるかもしれない形。でも失ってしまうかもしれない形。私は、どうしようもなく、失うのが怖い。
春希M: 長らく変わらない夏美との交わり。俺たちはお互いの体温を確かめ合い、少しの間眠りに落ちた。変えなければならないが、変えることの出来ない関係。俺が変えたいと願う関係。夏美を慈しむほど、どうしようもなく傷つけあってしまう、俺たちの関係。

(間)

(お湯をこぽこぽと注ぐ音)

夏美:「ん……んー……」

(夏美、目を覚まし隣に春希がいない事に気づく)

夏美:「……あれ? ……春希ぃ? ……」
春希:「んー? あ、悪い悪い、起こしちゃった?」
夏美:「……大丈夫、スンスン……こぉひぃ? 」
春希:「うん、飲む? 」
夏美:「……飲むぅ……んー……っていうか今何時?」
春希:「6時ちょうどだね。はいこれ」
夏美:「……え、なにこれ」
春希:「替えの下着、パンツだけだけど」
夏美:「……だれかの置き土産?」

(春希笑いながら)

春希:「ちがうよ、俺本当に信用ないな、寝てる間にそこのコンビニで買ってきた」
夏美:「……ごめん……」
春希:「いいよ、シャワー浴びといで、コーヒー、淹れておくから」
夏美:「……うん……」

(夏美ふらふらと風呂場に向かう)

(シャワー音)

(間)

夏美:「随分早起きしたね、ていうか春希寝てないんじゃない?」
春希:「いや、2時間くらい寝たよ、それに今日休みだしこの後寝る。はい、コーヒー」
夏美:「お、きたきた、あんたのコーヒーだけはほんっと大好きだわ。あー……美味しい~……ふぅ……」
春希:「……だけ、は余計だよ。今日はどうする? このまま家で寝ていってもいいけど」
夏美:「 帰る、あんたと一緒だと休まらないでしょ、髪乾かしたら帰って寝るわ」
春希:「そっか……残念……」
夏美:「あんたのそういうとこズルいわ……」
春希:「ん? 」
夏美:「何でもない、ドライヤー貸して」

(ドライヤー音)

(コンパクトなど化粧品のフタを閉じるぱちぱちという音)

(衣擦れ)

(間)

夏美:「よしっと、じゃあね、コーヒーごちそうさま」
春希:「おう、また来てね、いつでも御馳走するから」
夏美:「それはどうかなぁ? 」

(春希、笑いながら)

春希:「地味に傷つく」

(夏美後ろ手に手を振りながら)

夏美:「はいはい、じゃあねぇ」

(階段の音)

春希:「それはどうかな……か。結構……しんどいよなぁ……」

(扉を閉める音)
(春希は玄関ドアによりかかりながら思う)

春希M:夏美はどんな気持ちで俺の部屋に来るんだろう。夏美をこの部屋で抱きしめるとき、背中に回される彼女の腕。俺が強く強く抱きしめるほど、俺の背中に回される彼女の腕は、弱く弱く背中を撫でる、まるで宥(なだ)めるように。きっと、拒まれている。なのに理由をつけては俺と逢ってくれる。この関係が何なのか、俺にはわからない。だけど俺の気持ちはたった一つ、夏美を愛している。

(鍵を閉める音)

春希:「さてっと、さすがに寝るか……っとやっべ、あいつスマホ忘れてってるし。はぁ……仕方ない、届けるか。追いつけるかな……」

(扉を閉める音)
(階段の音)

(間)

冬子M:これは偶然なのだろうか、それとも、なにか運命のようなものなのか、家に帰って、寝て起きて、声出しのために起動したPCが吐き出した一件の通知。とある音楽制作会社からのお誘いのメール。若いころこそ喜んでいたものの、話を聞いてみれば誰かの作った詩を、誰かの作った曲に乗せて、ただ歌うだけ。けれどこのメールは、差出人としてメールの冒頭に書かれたのは。
秋也M:平素よりお世話になっております。この度Web上で活動をされておりますTokko様に於かれましては、大変な人気を博している旨僭越(せんえつ)ながら伺っております。つきましてはTokko様のメジャーでの活動を前提に、音楽レーベルNEXT STAGEへのご参加の要請、および弊社にてTokko様の楽曲のプロデュースを行わせていただきたく、ご連絡させていただいた所存でございます。突然のご連絡大変恐縮ではございますが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
冬子:「秋也君……」

(物憂げに画面の文字を撫でる)

(TEL着信音)

冬子:「わわっ! びっくりするって! ……ハル君? ……?なんだろう……」

(電話に出る)

夏美TEL:「冬子! どうしよう! ハルキが! ハルキがっ! 」
冬子:「え! なっちー⁉どうしたの!? 」
夏美TEL:「ハルキが死んじゃう、ハルキがぁ……」
冬子:「夏美落ち着いて! 今どこにいるの?」
夏美TEL:「わかんない、えと、わかんないよっ! えっと、えっと……昨日別れたあたり」

(夏美電話越しに泣き続ける)

冬子:「わかった、すぐ行くね……夏美!  しっかりして! 」
夏美TEL:「……グスッ……」
冬子:「ハル君が、どうしたの? 」
夏美TEL:「からまれてた……あたしを……助けようとして、でも二人相手だったから……いっぱい殴られて……返事……しないの……血も出てる……」
冬子:「落ち着いて、救急車呼んでから行くね、殴ったやつらは?」
夏美TEL:「わかんない……逃げた……」
冬子:「わかった、じゃあ警察も呼んでおくから……なっちー、落ち着いて! 」
夏美TEL:「うん……ぐすっ……うん……」
冬子:「落ち着いて、すぐ行くからね、夏美」
夏美TEL:「うん……」

(間)

(ハルキ処置中、入院予定の病室前にて冬子と夏美待機中)
(走る音)

秋也:「おい、ハルキは大丈夫か?」
冬子:「あ、秋也君、うん、一応命に別状はないって、血を吐いてたのも口を切っただけみたい、相手が酔っ払いで力が乗ってなかったのが幸いだったろうって」
秋也:「そうか、それで殴ったやつらは? 」
冬子:「近くの交番に自首したって、大事にはなってないし、今後どうするかはこれから相談」
秋也:「わかった、もし何か事を構えるときは、俺が知り合いの弁護士を紹介する。お前も大丈夫か? 夏美」
夏美:「うん……」
秋也:「大丈夫そうじゃねえな」
夏美:「うぅん、大丈夫、ちょっと疲れただけ。……っていうか、ハルキが生きててほっとした」
冬子:「うん、それは私もだよ、大丈夫、夏美のせいでもないんだし」
夏美:「……取り乱してごめんね、トーコ。助かった」
冬子:「うん、大丈夫」

(カートを押すような音)

冬子:「あ、戻ってきたみたいだよ」

(三人は息をのむ、命に別条がないとはいえ、顔はほぼ包帯とガーゼで覆われ、病衣から除く胴体にも、 分厚く包帯がまかれている。)

秋也:「全然大丈夫そうに見えねぇな」
夏美:「……」
冬子:「ん、私先生の話、聞いてくるね」

(足音)

(間)

冬子:「とりあえず命に別状はないけど、全身に結構打撲を受けてるから今夜は熱が上がるかもって。レントゲンとかでは異状ないけど、場合によっては容体が悪化することもあるから、出来たらだれか付き添いで宿泊してほしいみたい」
夏美:「私が残る」
秋也:「お前はやめとけ、俺が残る。鏡見て来い、ひどい顔してるぞ。昨日もろくに寝てないんだろ? 」

(被せて)

夏美:「残りたいの」
秋也:「っ! ……」
冬子:「……わかった、じゃあなっちー、部屋の鍵貸して。着替えとか、いろいろ持ってきてあげる」
夏美:「ありがとう、これ……お願い、クローゼットの上段におっきいバッグあるはずだから、他は遊びに来てくれた時と変わらない」
冬子:「うん、了解、秋也君車だよね? ごめんだけど乗せてってもらっていい?」
秋也:「ああ、問題ない、じゃあ……さっさと行ってくるか。夏美、お前も戻ってくるまで少しは休んでおけよ? 」
夏美:「……」
秋也:「ったく! 」

(遠ざかる足音x2)

(エンジン始動音)

(エンジン音)

冬子:「秋也君も、大丈夫? 」
秋也:「何が? 」
冬子:「秋也君も結構、ひどい顔、してるよ」
秋也:「……あいつら見てると、イライラするんだよ」
冬子:「イライラ? 」
秋也:「あいつら、お互い好き合ってんじゃないのか? 」
冬子:「うん、そうだね、そうだと思うよ」
秋也:「そのくせして、春希はフラフラ、夏美もフラフラ、なのになんかあればお互いバカやりやがって」
冬子:「……」
秋也:「ムカつくに決まってんだろ」
冬子:「……それはさ、仕方ないんだよ」
秋也:「何が仕方ないんだよ? 」
冬子:「んー、私からは、言えない、そうだな……ハル君が容体落ち着いたら、夏美と三人で飲もっか」
秋也:「……」
冬子:「たぶんそれで、秋也君のモヤモヤ、晴れると思うよ」
秋也:「だったらいいけどな。まあいい、こっから先道分んねぇ、案内してくれ」
冬子:「うん、りょーかい、そこ、右入って」

(間)

(病室にて 意識のない春希と夏美)

夏美:「春希、あんた何であんな馬鹿したのよ……私は、私がなんかされるより、あんたがいなくなっちゃう方がずっと嫌……ほんと、一番好きとか言うくせに、私のこと何にもわかってないじゃない」
春希:「……」

(夏美春希に口付け)

夏美:「愛してるよ、春希、だけどもう……今までも続けちゃいけなかったのに、ごめん。あんたのこと、失いたくないけど、無理させちゃうし、終わりにしようね」
冬子:「戻ったよ、なっちー」
秋也:「……鞄、ここ置くぞ」
夏美:「うん、ありがとう」
冬子:「なっちー、あんまり無理しないでね」
秋也:「いいか? なんかあったらすぐ連絡するんだぞ? 繋がるようにはしておくから」
夏美:「うん……二人とも……ありがと……」

(ほどなくして夏美は春希のベッドにもたれて眠りに落ちた)

(間)

(病室にて春希熱にうなされ始める)

春希:「う……ん……つみ……なつみ……」
夏美:「ん……」
春希:「夏美……な……つみ……」
夏美:「っ! 春希! 」

(夏美を探すように手をフラフラと動かしながら)

春希:「うぅ……夏美……大丈夫……夏美……」

(夏美は春希の手をつかむ)

夏美:「大丈夫、あたしだよ、いるよ! ……すごい熱……ナースコール……」

(夏美がナースコールに伸ばした手を春希がつかむ)

春希:「まっ……て、いいから、このまま……手を……」
夏美:「……」
春希:「ありがとう……落ち着く……」
夏美:「バーカ……」
春希:「はぁ……はぁ……ひどいな……はは……」
夏美:「バーカ……バーカ……バカ…………バカ……」
春希:「はは、言い……すぎ……」
夏美:「でもよかった、アンタが助けてくれた時……」
春希:「はぁ……はぁ……なに……? 」

(夏美無理矢理意地悪に笑って)

夏美:「なんでもない、てっか、さすがよね、女と見たら命がけで助けてくれるんだもんね、モテるはずだわ。寝るのだって私じゃなくたっていいのに、抱きしめてくれるしね」

(春希被せて)

春希:「誰だって……いいわけじゃない! ……誰とだって……寝るわけでも……ない! ……はぁ……はぁ……俺はお前が……ずっとずっと好きで……何度も……気持ち……伝えたのに冗談だって……俺のこと見て…………くれなく……て……はぁ……はぁ……でもお前に俺を見てほしくて! ……だからバカもすんだよ! ……お前以外の女なんて……考えられないんだよ! 」

(夏美ぽろぽろと泣きだす)

夏美:「……私は……あんたなんて嫌い、散々いろんな女とくっついてきたくせに、何が今更あたし以外考えられない、よ」
春希:「待って……俺の……話を……」
夏美:「とっととほかの女とでもくっつきなさいよ! 看護師さん、呼ぶよ! 」

(夏美、ナースコールを押す)

春希:「夏美! 」

(夏美春希に背を向ける)

夏美:「じゃあ、わたし待合室いるから……」
春希:「夏……美! ……待って……」

(間)

(入店ベル)

(ゆっくり目ピアノジャズ)

冬子:「マスターさん、こんばんわ、3人なんですけど、空いてますか? 」
マスター:「ああ、あなたは秋也君のお友達の」
冬子:「冬子です」
マスター:「冬子さんですか、ほかのお二人は先日の? 」
冬子:「ええ、今日は秋也君と、あともう一人の女の子です」
マスター:「ふむ? 4人ではなく3人なんですね。どうぞ、奥のボックスが空いてますよ」
冬子:「はい、ちょっと色々あって……今日は、三人だけで同窓会です。あ、とりあえず二人が来るまで何か頂いていいですか? すこし、先に飲みたいな、なんて」
マスター:「かしこまりました……でしたら、お二人が来るまでカウンターでおもてなししましょう」
冬子:「え? 」
マスター:「一人で飲む時間を持とうとする人は、悩んでいる人か、人と出会いたい人……冬子さんは人と出会いたいようには見えませんから」

(グラスをかき回す音)

マスター:「どうぞ」
冬子:「あ、ありがとうございます」
マスター:「秋也君のことですね?」
冬子:「ふふ……どうしてですか?」
マスター:「ベルベットハンマー、今宵もあなたを思う」
冬子:「お見通しなんですね……実は私、歌を歌っているんです。っていってもアマチュアで、秋也君がいるような会社じゃなくて、インターネットの放送とかで」
マスター:「ふむ……」
冬子:「それでこのあいだ、メールが来たんです、メジャーのお誘い、これでも結構いっぱいもらったことあって、いつも全部断ってたんですけど……」
マスター:「そのメールは秋也君の会社からだった」
冬子:「そうです……でも迷ってるんです」
マスター:「それはなぜ? 」
冬子:「んー、どっかの会社に行っちゃうと、自分が歌いたい歌、歌わせてもらえないんです」
マスター:「よく聞きますね、そういう話は」
冬子:「はい、それに私は秋也君や、なっちーや、ハル君への想いの歌を歌ってて、だから秋也君が誘った歌手が私だって知られると困る、っていうか」
マスター:「でも、秋也君の力にもなってあげたい」
冬子:「はい」
マスター:「本当にそれだけですか? 」
冬子:「……」
マスター:「秋也君の事情は私も大体知っていますよ」
冬子:「そう……なんですね」
マスター:「彼は、今心の拠り所を仕事に向けることで自分を保とうとしている、ですが、仕事なんてそう心の拠り所になるようなものではないですから、彼が折れないように見ていてあげる人はいた方がいいでしょうね」
冬子:「……」

(入店ベル)

マスター:「いらっしゃいませ、ちょうどお待ちですよ、奥のボックスを取ってあります、冬子さんも、どうぞこちらへ」
夏美:「トーコ、早いね」
冬子:「ふふ、私は時間に自由な人だからね! 」
夏美:「はいはい、羨ましいですねー、これでも今日は頑張って定時までに仕事終わらせてきたんだけどなー」
冬子:「あはは、ごめんごめん」

(入店ベル)

マスター:「おや」

(マスター入口へ向かって歩いていき)

(遠くで)

マスター:「いらっしゃいませ、あちらですよ」

(秋也足早に席に向かいながら)

秋也:「ターキーのロックとコイーバ、シガリロ」
マスター:「かしこまりました」
冬子:「どうしたの? 秋也君機嫌悪そうだね」
秋也:「おい、夏美、どういうことだ、お前春希に何言った」
夏美:「なんのことよ?」
秋也:「あいつに何言いやがった夏美!」
冬子:「ちょっと! 落ち着いて! 」
秋也:「お前が言ったことは大体想像つくけどな、なんで今のあいつになんだ!? お前! 」
冬子:「秋也君!……座って、お願い 」
マスター:「お持ちしましたよ、秋也君、まずお掛けください」
秋也:「……」

(秋也夏美を睨みつけながら席に着き葉巻を吸い煙を吐く)

マスター:「夏美さんは、何を飲まれます? 」
夏美:「彼と……同じのでいいです」
マスター:「かしこまりました」
秋也:「さっき春希んとこ行ってきたよ、体は良くなってたけどな、あいつお前が帰った日からろくに寝れてねぇって」
夏美:「あんた、優しいよね」
秋也:「何がだよ」

(夏美、秋也をまっすぐ見ながらぽろぽろと涙を流し)

夏美:「私は……あんたほど春希に優しくなれなかった……ずっと……」
冬子:「なっちー、そんなことないよ、秋也君も、そんな怖い顔しないで、ね? 」
マスター:「どうぞ」

(マスター酒を置いて席を離れる)

冬子:「ありがとうございます、ほら、なっちー」
秋也:「どういうことだよ、っつうかお前らの関係は一体なんだ? くっつくでもねぇ、離れるでもねぇ、そうやってフラフラフラフラとしてはお互い傷つけあって、馬鹿なのか」
冬子:「秋也君! 」
秋也:「うるせえ、こいつは解ってねぇんだよ! 春希はお前のことずっと想ってんだぞ!」

(被せて)

夏美:「あんたに何が解るってのよ!自分だってそうじゃない! 適当に結婚したかと思えば一人だけ辛そうな顔していつの間にか別れて、私たちが心配してたって気付きもしなかったくせに! 」
秋也:「俺の話は関係ねぇ! 俺の親友を傷つけられて黙ってられる訳ねぇだろうが! 」

(被せて)

冬子:「秋也も夏美もいい加減にして! 」
秋也:「っ……」
夏美:「……」

(冬子一つ溜息をつく)

冬子:「秋也君、とりあえず落ち着いて聞いてほしい、なっちーも、ごめん、私から話すけど、いい? 」
夏美:「……」
冬子:「秋也君、ハル君となっち―の関係、どんな関係だと思ってた? 」
秋也:「……恋人……だと思ってた時期もあったが、今はただの惰性」
夏美:「……」
冬子:「実はね、そうじゃないの」
秋也:「なに? 」
冬子:「なっちーもね、ハル君のこと、好きなんだよ、すごく」

(夏美目を伏せる)

秋也:「じゃあなんでこいつはあんな真似したんだよ!」
冬子:「……」
夏美:「……」
冬子:「あのね、夏美おっきな病気して高校一か月くらい、休んでたことあったじゃない? 」
秋也:「ああ、それがこれとどんな関係がある? 」
夏美:「冬子……やっぱり自分から話す」
冬子:「なっちー……」
夏美:「たまたま生理不順で病院行ったら子宮に癌が見つかって……だから私には……子宮がないの……」
秋也:「……」
夏美:「これで分かった? 」
秋也:「言葉が見つからん……」
夏美:「私は、春希のこと好きだよ。好きだけど。あげられないものが多すぎるの。出来ないことが多すぎるの」
秋也:「だからってなんであのタイミングなんだ! 」
夏美:「あのタイミングだからだよ……! 」
秋也:「……」
夏美:「これまでだってそう、私はあいつに甘えてた。あいつが付き合ってた女の名前覚えてたのだって、あいつからメールが来るたびに、あたしから離れていくんじゃないか、今度こそ戻ってこないなんじゃないかって……でも打ち明けたら打ち明けたで、あいつとは一緒にいられないから! 言えなくて、苦しくて、あいつの部屋に行って……そしてそのせいで、春希はあんな目にあった! 」
冬子:「なっちー、それは違うよ! 」
夏美:「いいきっかけだった! もうずっと前から続けちゃいけなかった!だからあの日、あたしは春希に……嫌い、て……嫌いって……言った」
秋也:「…………やっぱなんも解ってねえ……」
冬子:「秋也君?! 秋也君待ってよ! 」

(秋也マスターの前に一万円札を置いて何も言わず足早に帰る。冬子追う)

マスター:「ありがとうございました」

(マスター、一人残された夏美に歩み寄る)

夏美:「……」
マスター:「夏美さん、秋也君にお釣りを渡していただけますか? 」
夏美:「……」
マスター:「人の繋がりというものは、そう簡単に切れたりはしませんよ」
夏美:「っ!……はい、ありがとう、ございます……」
マスター:「また4人でいらしてください、お待ちしています」
冬子M:バラバラになっていく私たちの想い。今私ができること。それはきっと、秋也君に伝えること。

(間)

マスター:「いらっしゃいませ、おや、珍しいですね、秋也君はあちらですよ」

(秋也、ボックス席で葉巻をふかしている)

冬子:「秋也君」
秋也:「冬子? 奇遇だな 」
冬子:「ん? そうだね」
秋也:「一人か? 」
冬子:「うん、でも秋也君見つけたし、一緒していい? 」
秋也:「いや、今日は……今、人を待っていてな」
冬子:「そっか、どんな人? 」
秋也:「仕事の関係だ、話せない」
冬子:「そっか」

(冬子一つ深呼吸をする)

冬子:「はじめまして、メールいただきましてありがとうございました、Tokkoと申します」
秋也:「何を……? いや……お前が? 」
冬子:「うん、私がTokko、秋也さんのメール拝見いたしました。ありがたいお申し出、お受けいたします」
秋也:「……」
冬子:「ふふ、思ったより驚かないんだね」
秋也:「……いや……驚いた、お前が歌ってるとは思わなかったからな」
冬子:「そっか、気付いてなかったんだ、それでも私、秋也君からメール来て嬉しかったよ」
秋也:「……」
冬子:「秋也君からのメールだったから、受けようと思った。私に秋也君の歌を歌わせてほしいな」
秋也:「……」
冬子:「だめかな? 」
秋也:「……あぁ、わかった」
冬子:「ふふ、よろしくお願いいたします」
秋也:「ありがとうございます……よろしく……おねがいします」
冬子:「うん」

秋也M:彼女の歌を改めて聞くと、俺たち四人の関係や葛藤を歌にしていたことに気付いた。春希や夏美の葛藤、冬子は俺に伝えたかったからこの申し出を受けたのだろう。だが俺は、彼女の気持ちにこたえることは出来ない、怖いのだ、どうしようもなく。

(間)

(後日二人はスタジオで録音を開始する)

冬子:「送ってくれたの聴いてみたけど、結構アップテンポだね~」
秋也:「お前の声を考えるとな、太い音をゆっくり重ねるよりは、こういう歌の方が受けると思う」
冬子:「うん、頑張って歌ってみる 」
秋也:「合うと思うぞ」
冬子:「わかった、じゃあ、歌ってみるね」

(間)

秋也:「……なんか違うな……」
冬子:「そう? 」
秋也:「ああ、迫力がない」
冬子:「迫力、んーでもこの感じだと、このくらい軽くなっちゃうよ。秋也君は、どんな私を想像して作ってくれたの? この歌」
秋也:「……」
冬子:「私の今までの歌、聴いた? 」
秋也:「聴いた。けどあんなのお前の声には合ってない」
冬子:「そう……そう……かもしれないね」
秋也:「……」
冬子:「秋也君も、そう思うの? 」
秋也:「っ!? ……」
冬子:「この歌、秋也君が書いてくれたのでも、作ってくれたのでも、ないよね」
秋也:「俺が書いて俺が作った曲だ」
冬子:「嘘」
秋也:「嘘じゃない! 」
冬子:「……」
秋也:「俺が書いて……俺が作った曲だ」
冬子:「私の声を聴いて? 」
秋也:「そうだ……」
冬子:「私は、声だけで歌ってるわけじゃないよ? 」
秋也:「解ってる……」
冬子:「ハル君やなっちー、私自身の秋也君への想いを今まで歌ってた」
秋也:「解ってる……」
冬子:「秋也君からメールが来たとき、嬉しかった」
秋也:「それは」
冬子:「仕事だったとしても、やりたいことじゃなかったとしても、秋也君の力になれたらいいって思った」
秋也:「これが! 俺の、やりたい仕事だ」
冬子:「それは嘘。秋也君は、言葉は冷たいけど、もっと優しい歌を作る人」
秋也:「……俺の……何が解る……」
冬子:「解るよ、私は秋也君のこと誰よりもずっと見てきたから」
秋也:「俺はお前のことは見ていない! 」
冬子:「そんな言葉で! 今更私が傷つくと思う? 」
秋也:「っ! ……」
冬子:「この歌は、秋也君の歌じゃない」
秋也:「俺の歌だ! ……これだって俺の歌だ……」
冬子:「これだって? 私の声だけを聴いて誰かが考えた秋也君が作りそうな歌? 」
秋也:「そうだ! ……そうだよ! 仕事なんだ……俺にとってお前が売れることが第一だ……それ以上でも、それ以下でもない」
冬子:「……ねぇ、秋也君、私のこと、もっと真直ぐ見てほしい。秋也君のパートナーとして、仕事だけじゃない、秋也君の傷を癒してあげられるよう寄り添いたい、そして一緒の歩調で秋也君の横を歩いていきたい、私は」
秋也:「何の話をしてるのかわからねぇよ」

(被せて)

冬子:「大事なこと! 解ってるでしょう!? 」
秋也: 「……俺は、愛情っていうのがどんなもんなのか、もうわからない。ただずっと4人で、これまでみたいに居心地よく居たかった。そんな気持ちでいるだけの俺が、お前のその気持ちを受け取って、その気持ちを守り切れなかった時に……あの居心地のいい関係ごとお前を傷つけてしまうのが怖いんだ、だからすまん、お前の気持ちには、応えられない」
冬子:「応えてほしくも守って欲しくもない、私は秋也君が前の奥さんと別れてから、秋也君を傷つけるのが怖くて言えないまま、気持ちに気付いてもらおうとしてた。でもそんなの違う、拒まれたって、傷つけられたって、私は秋也君を好きだから、秋也君が離れない限り……ううん、逃げられたってずっと一緒にいるよ! 」
秋也:「……リテイク、いくぞ」
冬子:「……」
秋也:「本気で頼む……」
冬子:「わかった……」

秋也M:冬子の語った気持ちは俺がずっと渇望しながら得られなかった、愛情の形だった。確かにこんな歌は、彼女の歌じゃない。そして同時に、お互いがお互いを大事に想うあまり、いつの間にか歪んでしまった俺たち四人の関係。それを歌う彼女自身の歌もまた、彼女の歌ではない。

(間)



(ピンポーン)

夏美:「はーい、ん、誰だろ」

(夏美、覗き穴を覗き息をのむ)

(ピンポーン)

(ドア越しに)

春希:「おーい、夏美―」

(夏美ドアによりかかりながら独り言)

夏美:「なんで……」

(春希、ドアのわずかながた付きで夏美がドアの前にいることに気付く)

春希:「夏美……いるんだろ? 」
夏美:「……何しに来たのよ」
春希:「デートのお誘い」
夏美:「キモい」
春希:「ひどいな。あのマスターのお店、一緒に行こう? 」
夏美:「退院したばっかで何言ってんのよ」
春希:「俺もともとソーダばっかりだから問題ないって」
夏美:「……」
春希:「……なあ……夏美、やっぱり俺、諦められない。俺はどうしようもなく夏美が好きだ」
夏美:「そう、でも私はあんたが大嫌い。すぐほかの女に手を出すし、すぐ近場で済まそうとするし……こんな風に……私の気持ち考えずに家に来るし……ほんと、馬鹿で、鈍感で、何なのよあんた、なんで私のこと、あんたのこと嫌いって言ってる私のこと、嫌いになってくれないのよ……」

(春希もドアによりかかる)

春希:「なれるわけないじゃん、嫌いになんて」
夏美:「……」
春希:「10年だぜ? 俺たちの関係」
夏美:「終わった、関係」
春希:「ああ、そうだな、俺は夏美に振られた」
夏美:「うん、振った」
春希:「だけど、やっぱり諦められない」
夏美:「……バカ? 」
春希:「バカじゃない」
夏美:「バカだよ、大体、私じゃなくたっていいくせに」
春希:「違う。絶対に夏美じゃなきゃだめ」
夏美:「っ! ……」
春希:「俺は夏美と一緒にいたい、これから先もずっと」
夏美:「私と一緒にいたら、あんた、きっと後悔する」
春希:「後悔なんてしない」
夏美:「あんたは何も知らないから! ……そんなこと言えるのよ……」

(春希扉によりかかっていた態勢から扉に向き直る)

春希:「何のこと? 」
夏美:「ずっと隠してたことがあるの。知られたら、もうあんたの傍にはいられないって思ってること」
春希:「……うん」
夏美:「でも、あんたを失うのも、ずっと怖かった。こないだだって……あんたが死んじゃったらどうしようって……」
春希:「大丈夫。俺はいなくならない、絶対」
夏美:「春希……あのね、私だって、私だって本当はあんたのこと…………好き……だよ」
春希:「……」
夏美:「でもね、どんなに好きでも、だめなんだよ」
春希:「何でだよ……何がだめなんだ」
夏美:「……春希は私との未来、考えたことある? 」
春希:「ある。一緒に暮らしたい、本当は……夏美と結婚だってしたい」
夏美:「その先は?」
春希:「その先? 」
夏美:「……結婚して、それで終わり? 」
春希:「……子供、とか? 」
夏美:「うん……それがね、私には無理なの」
春希:「欲しくないってこと? 」
夏美:「違う……私も欲しい。でも私は……子供を……産めないの」
春希:「……」
夏美:「解った? だからもう……私たちは終わり」

(遮って)

春希:「終わりじゃない!」
夏美:「っ!? ……」
春希:「やっぱり馬鹿は夏美だ、俺が欲しいのは夏美との子供じゃない! 」
夏美:「何言ってんのよ! 大事なことだよ! 」

(遮って)

春希:「ちがう! 本当に大事なのは……俺が欲しいのは夏美だ! 夏美だけだ! 」
夏美:「……」
春希:「今まで俺は、夏美を好きな俺の気持ちだけを大事にしてきた。でもこれからは、俺の気持ちだけじゃない、夏美を大事にする。夏美さえいれば絶対に後悔なんてしない!」
夏美:「本当に、私で、いいの? 」
春希:「夏美でいいんじゃない、夏美じゃなきゃいけないんだ! 俺を、傍にいさせてくれ」

(夏美、扉を開き数秒見つめ合う)

夏美:「……バカ」
春希:「なんだよ」
夏美:「傍に居させてじゃなく、傍に居ろ!くらい言いなさいよ! 」
春希:「悪い……」
夏美:「それに……泣かしてどうすんのよ! これからデート行くんじゃないの!? 」
春希:「ご、ごめん……」
夏美:「簡単に謝ってんじゃないわよ! 」
春希:「ぉ、ぉぅ……」
夏美:「そこで待ってろヴァカ、化粧直してくるからヴァカ、今日は、あんたのおごりなんだからねヴァアカ」
春希:「おう、バカな俺だけど、ちゃんと待ってる」

(夏美春希に抱き着き泣く)

夏美:「バカ! バーカ……バーカ! 」
春希:「はは、だから言い過ぎ」
夏美:「足りないくらいよ……バカ…… 」
春希:「ああ、これからも、もっと言ってくれ、ずっと」
夏美:「……うん」

(間)

春希:「マスターどうもです、席二つ空いてますか? 」

(春希の後ろの秋也を見やりながら)

マスター:「いらっしゃいませ春希君、今日は秋也君とデートですか? 」
秋也:「お前、人のお気に入りを不純な目的に使ってんなよ」
春希:「えー、いいじゃん、それに不純な目的できたことは、ない! マスター、俺ソーダでお願いします」
秋也:「フォアローゼスのブラックラベルダブル、ロックで、あとコイーバ 、ランセロス。週替わりで女をとっかえひっかえしている男が何言ってんだか」
春希:「んなことしてねぇから、つか、俺夏美と結婚することにしたわ」
秋也:「へぇ……結婚ね……おめでとう……」
春希:「意外とリアクション薄いのな」
秋也:「まぁおれは結婚に対してそれほどいいイメージも持ってないし、一度失敗してるしな」
春希:「そんなもんかねぇ……つかさ、お前はお前でとこちゃんとどうなんだよ」
秋也:「なんでそこであいつの名前が出てくるんだよ、別になんもねーよ」
春希:「なんもねーってお前さ、とこちゃんお前のこと好きだって気付いてないわけじゃないだろ? 白々しく知らんふりしてるけどさ」
秋也:「うるせえよ」
春希:「離婚してもう結構経つだろ? つかお前がよくわからん大学の同期と結婚したのも驚いたけどさ、とこちゃん長いことお前のこと好きなんだし、ずっとお前のこと気遣って何も踏み込まず傍にいてくれてんだから、少しは目を向けてみろよ」
秋也:「……うるせえってんだよ………………はぁ……まったく、俺がお前に説教食らうなんて、明日は槍でも降るかね」
春希:「そうか? 俺たち二人の時は昔っからこうじゃん。お前人数多いと頭も口も回るから強いけどさ、結構自分の意見押し殺しまくってるし、ぶれっぶれじゃん」
秋也:「……」
春希:「だから4人では飲んでも、俺とサシでは来なかっただろ。最初の結婚だって、自分の気持ちっていうより、相手に求められるままだったように見えたけどね、俺には」
秋也:「……半分は合ってる、が、半分違うな。俺は俺のことがどうしようもなく可愛いのさ。だから相手の望みを満足させたら、いつか俺のことを愛してくれるんじゃないか、そういう気持ちで相手の求めに従う。別に押し殺してるわけじゃない」
春希:「なんで自分より相手が先なわけ? 」
秋也:「なに? 」
春希:「だってさ、相手がお前に求めるものがあるように、お前にだって求めるものってあるだろ? どっちが先かなんてないじゃん、お互いに自分の中身見せ合って、そうして合う相手見つけるもんじゃないの? 自分の形を変えるのは楽かもしれないけど、壊れるくらい変えるのは違うと思うな~……と、マスター、ソーダ飽きたから俺でも飲めそうなカクテルありません? 」
マスター:「そうですねぇ、春希君にはロングカクテルでも少し度数を緩めたものがいいかもしれませんね」

(被せて)

秋也:「マスターこの馬鹿にメアリー・ピックフォード」

(マスター、秋也の顔をちらりとのぞき)

マスター:「かしこまりました」
春希:「お、弱いやつ? 」
秋也:「違う、とっとと潰れて寝ちまえ」
春希:「うぇ!? いや、今日は俺の驕りだったろ……あ、すいません、ありがとうございます」
秋也:「黙って飲め」
春希:「……お、強いけど甘くて飲みやすいな、でもこれ全部行ったら結構効くなぁ……」
秋也:「……」

(間)

(春希寝落ちている)

マスター:「秋也君も素直じゃないですね」
秋也:「何が? 」
マスター:「お酒に頼らず、言葉でお礼を言うのも時にはいいことですよ、今日の君は粋を通り越して野暮です」
秋也:「ふん、こいつ意外と頑固でな、快気祝いだ結婚祝いだ言っても、こうでもしなきゃ受け取らないのさ」
マスター:「そうですか……それは、難儀なお友だちですね」

(葉巻の煙を口の中で少し遊ばせながら春希の寝顔を見て煙を吐き、笑いながら)

秋也:「あぁ……まったく最悪なやつらだ」

(間)

(後日秋也と冬子の2度目の収録)

冬子:「え? このスコア、前のと違うけど」
秋也:「今日はそれ、歌ってみてくれ」
冬子:「でも、練習もしてないよ? 」
秋也:「解ってる、だがお前なら歌えるはずだ、何回か聞いたら、行くぞ」
冬子:「……うん……」

(間)

冬子:「……書いてくれたんだね」
秋也:「……」
冬子:「でもやっぱり突然はひどいな、あの歌だって頑張って練習してたんだよ? 」
秋也:「すまん……独立したから、忙しくて連絡がなかなかできなかったんだ」
冬子:「え……うそ」
秋也:「嘘言ってどうする、自分がやりたいことが出来ないだけならいい。だが、お前まで巻き込むのは、間違ってた」
冬子:「……」

(冬子涙を堪える)

秋也:「これが、俺の書いた詞で、俺の作った曲だ、正真正銘の」
冬子:「そっか、やっぱり優しい歌だね」
秋也:「……でもな、これも俺の歌じゃない」
冬子:「……そう、なの? 」
秋也:「ああ」
冬子:「でも、私は、好きだな、この歌」
秋也:「……いいから、録るぞ」
冬子:「うん……」

冬子M :私はずっと、誰にとっても無害な存在でいたかった。気持ちを伝えること、傷つけること、誰かの形を変えてしまうことが恐かった。けど、誰かと生きるっていうことは、誰かの形を変えるということだ。それを押し殺していたから、私の歌は歪で卑屈だったんだ。秋也君の歌は、そんな私の歌とは違う。無骨な言葉選びの中に感じる、熱い熱い想いと、優しさが溢れた、私が愛する彼の姿そのものだった。

秋也M:伸びやかに、熱く、優しく、心地よく、冬子は歌った。初めてとは思えないほど。

(間)

(エンジン停止音)

冬子:「送ってくれてありがとう。それと、あの曲、歌わせてくれてありがとう」
秋也:「そうか、なら俺も嬉しい」
冬子:「……ねえ、秋也君」
秋也:「ん? 」
冬子:「聞いてもいい? 」
秋也:「何を? 」
冬子:「これも俺の歌じゃない、って、どういう意味? 」
秋也:「……」
冬子:「あの歌、私は秋也君そのものだなって思った。だから、初めてでも歌えた」
秋也:「そうか、まあ、追々話すさ」
冬子:「ねえ秋也君! 」
秋也:「っ! おい! 」

(冬子秋也の首に腕を回し唇にキスをする)

冬子:「……」
秋也:「……」
冬子:「はぐらかさないで……」
秋也:「……」
冬子:「ねえ……これでも、話してくれない? 」

(秋也冬子の首に腕を回し逆にキスをする)

秋也:「あれは……お前を想って俺が作った、”俺たち”の歌だ」

(間)

マスター:「おや、4人でいらっしゃるのは随分お久しぶりですね。お待ちしておりました」

(エンディングテーマ)

春希M:たぶん俺たちはずっと大人になれていなかった、どんなにたくさんの言葉を交わしたって、どんなにたくさんお互いを傷つけあったって。
夏美M:自分が痛いこと、自分が辛いこと、自分が悲しいこと、自分が苦しいこと、そんな心の歪さを見せて、受け入れてくれると信じる事。
秋也M:受け入れて自分の形が変わってしまったとしても、その形にあった誰かがいるということ、そしてそれを恐れず信じる事。
冬子M:傷つけることを恐れないこと、傷つけて、傷つけられて、殻を壊し合って、そうしてお互いの本当の形を見せ合って。
春希M:そうやって、俺たちは大人になっていく。
夏美M:たぶん、ずっとずっとそうやって進んでいく。
秋也M:本当の意味で大人になる事なんて、きっとない。
冬子M:だからせめて、一つ一つ大人を演じる練習を重ねるんだ。
秋也:「最近4人とも忙しくてな、奥のボックス空いてる? 」
春希:「俺ソーダで」
秋也:「メアリー・ピックフォード、あとコイーバのシガリロ 」
冬子:「私ブルーラグーンお願いします」
夏美:「このウォッカアイスバーグ? っていうの飲んでみたい、強そう」
マスター:「かしこまりまりました」
春希:「あ、そういやさ、俺と夏美一緒に棲み始めた」
秋也:「へぇ、やっとか、婚姻届け出したのだいぶ前じゃなかったか? 」
冬子:「私たちはどうする? 秋也君」
夏美:「トーコとアッキーまだ一緒に暮らしてなかったんだね」
秋也:「結婚はしたんだがな」
冬子:「一緒に住める部屋探してるんだけど、なかなか見つからないんだ~」
夏美:「あー、そうなんだ。そういえば二人とも部屋数少なかったもんね」
春希:「俺たちの場合元々夏美に来てもらう前提で広いとこ借りてたからなぁ」
夏美:「とか言われたら一緒に住むしかないもんね」
冬子:「そうだったの!? うわぁ、なんか羨ましいな」
秋也:「……」
夏美:「あ、アッキーむっとしてる」
冬子:「え、大丈夫だよ秋也君、一緒に探すの楽しいよ」
秋也:「うるせぇ、くっつくな」
春希:「あー秋也良いな、夏美も俺に抱き着いて」
夏美:「おっけー、首でいい? 」
春希:「ったいたいたい、それDV! Domestic Violence! 」
夏美:「だから何でそこだけ流暢なのよ」
マスター:「お待たせしました」
秋也:「マスター騒がしくてすまんな」
マスター:「とんでもない、楽しく飲めるのが一番ですよ」
春希:「ありがとうございます」
夏美:「来た来た~」
冬子:「あ、どうもです」
マスター:「どうぞごゆっくりお寛ぎください」

(4人はアドリブやってもいいし、そのままエンディングテーマに任せてもよし)

マスターM:「あの四人はずいぶんと、気持ちのいい飲み方をするようになりましたね」

(間)

マスター:「また 是非4人で 、お待ちしております」

(エンディングテーマフェードアウト)

――――ー完―――――

お疲れ様でございました。

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