短縮版 大人ごっこ

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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あらすじ

登場人物4人の恋愛もの

4人は小学生時代に知り合って以降長らく友人として関係を維持している幼馴染

登場人物

春希(はるき) ♂ 30歳

・会社員
・見た目は良く、モテる
・夏美とは長らくセックスフレンドの状態
・ただし夏美のことは愛している
・酒は弱い

夏美(なつみ) ♀ 30歳

・会社員
・春希とは長らくセックスフレンドの状態
・春希のことは愛している
・幼少期の病気により子供が出来ないため春希と真剣に付き合うこと自体は拒んでいる
・火酒が好き

秋也(あきや) ♂ 30歳

・音楽プロデューサー
・それなりに売れてはいるが会社の意向にあった音楽しか作れないことに膿んでいる
・過去に離婚歴があり恋愛には興味が薄い
・また、その経験から踏み込まれることを好まない
・バーに来たときのみ葉巻のコイーバを嗜む

冬子(とうこ) ♀ 30歳

・フリーター
・春希と夏美の事情を両者ともに詳しく知っている
・長らくシンガーソングライターとしてweb上ではそれなりの人気を誇る
・ただし音楽性が万人受けしないこと、自分の歌いたい歌を歌いたいことを理由にメジャーデビューは考えていない(話がないわけではない)
・秋也が好きだが踏み出せないでいる。

マスター ♂・♀

・秋也行きつけの店のマスター

配役表

春希:
夏美:
秋也:
冬子:
マスター:

本編

居酒屋入店

SE:電子チャイム音
SE:うるさめのガヤ ここから↓

春希: 「 悪い悪い、急に残業長引いちゃって」
秋也: 「 遅ぇ、呼び出したお前が1時間以上遅刻とかマジ有り得ねえだろ、とりあえずここの払いはお前な」
春希: 「うえぇ、悪かったって、  あ、すみませーん生一つで~」
夏美: 「え、何?今から頼むの?そろそろあんた置いて次行こうかって話してたところなんだけど?」
春希: 「えぇぇひどくね?つか二人とも俺の扱いひどすぎね?」
夏美: 「ひどくない」
秋也: 「ひどいのはお前だ」
冬子: 「もう慣れたけど」
春希: 「うっぇ⁉とこちゃんまで言う?うー、ごめんってば」

―春希届いたビールを受け取る。

秋也: 「とりあえずそれちゃっちゃと空けろ、次行くぞ次…」

―春希秋也の言葉が終わるのを待たず飲みほす。

春希: 「んくっっはぁーーーーーーー!めっちゃ走ったから超うまいわ!」
冬子: 「ちょっと!大丈夫?はるくんそんなお酒強くないのに…」
春希: 「だぁいじょうぶだいじょうぶ、ほら次行くんだろ?」
秋也: 「なんなんだあいつ?なんかあったのか?」
冬子: 「たまにあるよね、こういうこと…なっちーなんか聞いてる?」
夏美: 「.......」
秋也:「まあいい、いくぞ」
SE: うるさめのガヤ ここまで↑

(間)

冬子M: 春希の様子、そして夏美の様子から、私はなんとなく事情を察した。とはいえ、私からは何も言うこともできることもない。歯痒いけれど、これはこの二人の問題だから。
SE:入店ベル
BGM:ゆっくり目ピアノジャズ

マスター:「いらっしゃいませ、おや、ご無沙汰ですね」
秋也: 「最近一人の時間がなかなか取れなくてね。マスター、席、四つ空いてる?あと水、デキャンタで頂戴」
マスター: 「かしこまりました、どうぞこちらへ」
冬子: 「わぁ~オシャレなお店ぇ、さすが音楽プロデューサー、私こんなお店恐れ多くて来れないよ」

―マスターに促されながら秋也と冬子奥のボックス席に着く。
SE:入店ベル
―遠くで

マスター: 「いらっしゃいませ」
秋也: 「別にここは仕事で使ってる店じゃない、いつも一人で来てる。たまたまさっきの店から近かったからな、できればあんま人は誘いたくなかったんだけど。..............あれじゃあな.......」

―言いながら秋也は遅れて入店してきた春希と夏美を見やる。  春希は夏美に肩を借りている。

夏美: 「ちょっと!あんたいい加減にしなさいよ?よくあれ一杯でそこまでなれるわね、っちょっと」
春希: 「らってさぁ…いって、なっちぃ、もうちょっと優しくしてよ」
夏美: 「十分優しくしてますー。つかさっさと先に出たと思ったら、店の横でぶっ倒れてるんじゃないよヴァカ」
春希: 「いってぇ、なっちぃそれDV、Domestic Violence」
夏美: 「別にあたしら何でもないでしょ、DVでもないわよただのバイオレンスよ、つかなんでそこだけ流暢なんだよ」
秋也: 「お前ら、いい加減にしろ、ここはそういう店じゃねぇんだよ」

―マスターがデキャンタで運んできた水を春希の前に置かせ、横を向きながら呟く

秋也: 「.........ったく、だからこいつらは連れてきたくなかったんだ」

―マスターが軽く秋也の肩に手を添え、微笑んでからカウンターの裏に戻った

秋也: 「っ.......まあいい、とりあえずそれ飲め、ハルキ、今すぐ、全部だ」
春希: 「ふぁい」

―春希が水を飲み干すのを見届けて、秋也が口を開く。

秋也: 「それで?本日私共は何のためにご招待に預かったのでしょうか?」
春希: 「ふぇ?いやー.......ほら、久々にみんなと飲みたいなぁって思っただけで.......」

―夏美おもむろにスマホを取り出し文面を読み上げる

夏美: 「『やっほーなっつぃ!俺ついにまたまた彼女出来ちゃった!なんと22歳の大学四年生、木乃美ちゃん!超若くてかわいいの!これでお前との爛れた関係ともおさらばだな!』」
春希: 「うぇ!?」
冬子: 「うわー.......やっちゃってるねー」
秋也: 「えぐいな.......」
夏美: 「どうせこれ絡みでしょ?また振ったか振られたかして、さすがに私のこと呼び出すわけにもいかず、4人ならどうにかなるかも~とでも思ったんじゃないの?」
春希: 「ぐ.......」
夏美: 「つかこれ来たの1週間前なんだけどね?」
冬子: 「短っ!えー、ハル君飽きっぽいねぇ.......幼馴染でもこれはさすがにちょっとひくなー」
秋也: 「つまり俺とトーコをダシに使って夏美との間を取り持たせようとした、っていう理解であってるか?」
春希: 「いや、いやいや、そんなつもりは.......」
秋也: 「じゃあどんなつもりなんだよ、.......っつうかお前これ何度目だ?」
夏美: 「えーっと、京子ちゃん、羽純ちゃん、亜希子ちゃん、葵ちゃん、秋穂ちゃん.......のときはこういうのなかったか、で、うーんっと.......瑞樹ちゃん、智花ちゃん、香ちゃん.......」
秋也: 「お前もお前でよく覚えてるな.......」
夏美: 「そりゃ毎度毎度誰かと付き合う度に、こういう手の込んだ嫌がらせメール来てたら、嫌でも覚えるわ」
秋也: 「毎度なのかよ、ハルキ、お前マジいつか刺されるぞ、やめろよ?幼馴染で殺し合いとか」
夏美: 「はぁ!?なんであたしがこんな奴刺さなきゃいけないのよ、『爛れた関係』のこんな奴刺したって何の得もないわ」
冬子: 「なっちーは慣れすぎ」
春希: 「別に嫌がらせじゃなくて.......」
秋也: 「じゃあなんなんだよ、まぁ、とりあえずここもお前もちな」

―いいながら秋也はカウンターに向かって人差し指をたてる。

春希: 「ふぁい.......」
マスター: 「ご注文ですか?」
秋也: 「この馬鹿にソーダ、あと俺はオールドパルを頼む、あとコイーバのシガリロを」
冬子: 「お、じゃああたしベルベットハンマー」
夏美: 「あんたらはなんでそういうお酒の名前が次々出るのよ.......じゃあ、わたしはあれかな、ブラッディマリー」
秋也: 「火酒以外飲むの珍しいな、いいウィスキーも多いぞ、ここは」
夏美: 「ん、いいよ、どうせこいつ多分もう少し酔いが進むし、結局あたしが送っていかないといけないでしょ」
冬子: 「なっちーもなっちーでハル君の事甘やかすよねー」
夏美: 「腐れ縁だからねー、でもさ、なんだかんだ言って、秋也とトーコだって結構この馬鹿に甘いと思うけど?なんとなくこういう流れだってわかってたでしょ?」

SE: 打撃音
―夏美は意識の確認がてら春希の頭に拳骨を叩き込む。

春希: 「.......んでっ、Zzz」
冬子: 「まー、ハル君は残念だけどイケメンだしね、それにやっぱりなっち―とハル君が話してるの見るの、楽しいし。あ、きたきた、ありがとうございまーす。まあ、今日はあんまり見られそうにないけど」
秋也: 「夫婦漫才が面白くて来てるのは俺も認める.......」

SE: 打撃音
―秋也も意識の確認がてら春希の頭に拳骨を叩き込む。

春希: 「.......んぁっ、Zzz」
秋也: 「幼馴染でもあるし、4人で集まって飲むのが居心地がいいっていうのもある。まぁ、この店を知られたのは誤算だったが」
夏美: 「別に漫才してるつもりはないわよ.......」
冬子: 「夫婦は否定しないんだね~」
夏美: 「とこちゃーん、あんた後で覚えておきなさいよ?」
冬子: 「こわー、秋也君たすけてぇ?」

ー葉巻の煙を吐きながら

秋也: 「うっせぇ、少しは静かに飲め.......」
冬子: 「ほんっと冷たいよね~、そういえば最近仕事はどう?」
秋也: 「べつに、相変わらず言われたもん作って、あてがわれた人間に歌わせてるだけだよ。面白くもない」
冬子: 「そうなんだ.......なんか相変わらずって感じだね~」
秋也: 「あー、でも最近Webでプロデュースしたいなってやつ見つけて、ちょっと調整中なのが一件あったな。歌詞がやたら重いから万人受けしなそうだが」
冬子: 「へぇ、なんかめずらしいね、ちょっと仕事に前向きな秋也君」
秋也: 「.......まあ仕事自体嫌いなわけじゃないけどな、まだ俺くらいじゃ自分の思うような仕事ができないのさ、けど今回の話がモノになれば、もしかしたら好きなもの作る足掛かりにもなるかもな。そういうお前はどうなんだよ?最近」
冬子: 「んー、相変わらずのフリーター生活、やりたいことあるからさ~。まあ、生活には困ってないよ、やばくなったら、秋也君と結婚する!」
秋也: 「バツイチに嫌味言ってんじゃねぇよ(笑)そういえばやりたいことって.......」

―夏美 かぶせて

夏美: 「実際なんだかんだで私ら奴隷よりは、トーコのほうが稼いでたりするからね、たまにうらやましいわ、ま、私にはやりたいことなんてないんだけどさ」
秋也: 「会社員も会社員で大変だな」

(間)

―秋也、春希に肩を貸して支えながら

秋也: 「マスター、こんな時間まで店空けさせてしまって悪かった」
マスター: 「いえいえ、またいらしてください、次もまた是非四人で」
秋也: 「次は一人で来るよ、毎回こいつらと飲んでたら身が持たん、じゃあ」
冬子夏美: 「ごちそうさまでした!」

SE:階段を降りる音
―4人が階段を下り、ビルを出ていくのを見届けながらマスターは呟く。

マスター: 「『今宵もあなたを想う』、秋也君も存外足元は見えないものですね」

SE:足音
SE:ドアベル
SE:鍵を閉める音

(間)

SE:足音x4

冬子: 「いいお店だったね、美味しかったし」
夏美: 「そうだね、まーたまに行くにはいいかもね、でも私は居酒屋のほうが気楽だなぁ」
冬子: 「私は結構好きだったけどなぁ」
夏美: 「っていうかトーコ、あんたお酒あんなに詳しかったっけ?歌うのに差し支えるから―ってずっとお酒飲むの控えてたのに、ベットハンマー、だっけ?よくあんな名前のお酒頼んだね」

―冬子は秋也に目を向けながら少し声のトーンを落として

冬子: 「ベルベットハンマーね、ちょっとだけ調べたんだ、作詞に使いたくて」
夏美: 「ふーん、どんな歌?」
冬子: 「うーん、大人の恋の歌かな、詳細は、まだ秘密」
夏美: 「そっか、じゃあ楽しみにしとく。なんかあんたの歌さ、私にも結構刺さるっていうか、泣きたい時にすごくいいんだよね、あれ歌ってるのがこんなほわほわした子だとか信じられないわ」

―夏美にも聞こえないよう呟くように

冬子: 「こんなだからなんだけどね.......」
夏美: 「え?」
冬子: 「うぅん、なんでもない。まぁ次も期待してて、泣きソングの女王ことTokko様がまたなっちーを泣かせてあげる」
夏美: 「あはは、期待しとく」
冬子: 「でも良かったね」
夏美: 「何が?」
冬子: 「ハル君、また戻ってきて」
夏美: 「別にあたしらは付き合ってる訳じゃないし、戻ってきたはおかしいでしょ。それに、とっとと他の誰かとくっつけばいいのにって思うよ?」
冬子: 「.......ハル君、なっちーのこと本気で好きだと思うけどな」
夏美: 「.......解ってる.......」
冬子: 「.......」
夏美M: ハルキの気持ちはよく知っている。私もどうしようもなくハルキを好きだ、誰よりも、きっとこれからもずっと。だけど、私にはハルキも知らない秘密がある。そしてそのせいで、ハルキの気持ちに応えるわけには行かなかった。
冬子: 「きっとあの事だって、ハル君ちゃんと解っ.......」

―被って

秋也: 「おい夏美!そろそろ変われ、お前ら別方向だろ!」
夏美: 「何でセット扱いよ!」
冬子: 「でも送ってく前提でお酒抑えてたよね」
夏美: 「そうだけど.......」

SE:打撃音

夏美: 「このヴァカとセットにされんのはなんかムカつくわ。 ほら!ヴァカ!シャキッとしなさい!」

SE:ビンタ×n回

春希: 「.......っったい!痛い痛い痛いって!」
夏美: 「起きた?ほら、あんたの部屋行くよ?」
秋也: 「やっぱり、セットじゃねえか.......」
冬子: 「だよね」
夏美: 「あんたらうっさい」
秋也冬子: 「あはははは」
春希: 「ふぇ?ふぇ?」
秋也: 「まあいい、じゃあここでな。ハルキ、今日は払っといたから今度奢れ」
春希: 「おう、今日はごめんな」
冬子: 「二人ともまたね~」

―秋也と冬子、会話しながら遠ざかる。

秋也: 「さすがに遅い、送る」
冬子: 「えー?泊まってく?」
秋也: 「やっぱ一人で帰れ.......」
冬子: 「冗談だよ~送って送って」

―去っていく二人の背を見送りながら。

春希: 「あいつ、ほんと鈍感だよな」
夏美: 「あんたが慣れすぎてるだけでしょ」
春希: 「そうでもないって、一番大好きな夏美の気持ちも、全然解らないしな」
夏美M: ハルキのこういう言葉は何年一緒にいても、胸の奥をチクリチクリと苛む。本当はこの言葉を受け入れたい。自分の気持ちを受け入れてもらいたい。けどきっと、それは叶わない願いだから、暴れる動物を檻に繋ぐように、この気持ちは胸の奥にしまっておくしかない。
春希: 「なぁ、俺らやっぱ付き合うわけにはいかないのか?」
夏美: 「またあんたはそうやって手近で済ませようとする。 だからすーぐ別れるのよ」
春希: 「別にそういう訳じゃねえよ」
夏美: 「いいから、いくよ」

(間)

――――――――――――――以下ちょっと18禁要素あり飛ばしてもいいです―――――――――――――――

春希: 「ただいま~、やっとついたぁ!入って入って」
夏美: 「なんか随分久々な気がするわ」
春希: 「10日ぶりくらい?つか別にいつでも来てくれたらいいのに」
夏美: 「彼女のいる男の部屋に彼女でもない女がそうそう来れるわけないでしょ.......ちょっと.......」
春希: 「だったらさ、俺と付き合ってくれたらいいじゃん.......」
夏美: 「無理だって.......言って.......るじゃない.......私たちには、こういう関係があってるよ.......」
春希: 「俺は.......これで.......いいと思ってない.......」
夏美: 「.......だったら.......やめる.......?」
春希: 「いやだ.......それに.......」
夏美: 「.......なによ.......」
春希: 「家に入れた女.......夏美以外いないよ.......」
夏美: 「.......みんなに.......そんな.......こと、言ってるんでしょ.......」

―春希、手を止めて夏美の目をまっすぐに見つめる

春希: 「違う、本当だよ。俺は、夏美以外とは考えられない。これまでも、これからも」
夏美: 「.....................いいよ、なんでも.......ねぇ.......やめないでよ.......」
春希: 「夏美.......夏美っ.......愛、してる.......」
夏美: 「っ.......」
夏美M: 胸の奥が痛む、涙が溢れてくる。春希の名前を呼びたい、今こうして素肌を触れ合わせて感じる愛おしい体温に、形を持たせることが出来たらどんなに幸せか。けどそれをしたらどんな形であれ、きっともう戻れない。得られるかもしれない形。でも失ってしまうかもしれない形。私は、どうしようもなく、失うのが怖い。
春希M: 長らく変わらない夏美との交わり。俺たちはお互いの体温を確かめ合い、少しの間眠りに落ちた。変えなければならないが、変えることの出来ない関係。俺が変えたいと願う関係。夏美を慈しむほど、どうしようもなく傷つけあってしまう、俺たちの関係。

――――――――――――――以上ちょっと18禁要素あり飛ばしてもいいです―――――――――――――――

(間)
SE:お湯を子ぽこぽと注ぐ音

夏美: 「ん.......んー.......」

―夏美、目を覚まし隣に春希がいない事に気づく。

夏美: 「.......あれ?.......春希ぃ?.......」
春希: 「んー?あ、悪い悪い、起こしちゃった?」
夏美: 「.......大丈夫、スンスン.......こぉひぃ?」
春希: 「うん、飲む? 」
夏美: 「.......飲むぅ.......んー.......っていうか今何時?」
春希: 「6時ちょうどだね。はいこれ」
夏美: 「.......え、なにこれ」
春希: 「替えの下着、パンツだけだけど」
夏美: 「.......だれかの置き土産?」

―春希笑いながら

春希: 「ちがうよ、俺本当に信用ないな、寝てる間にそこのコンビニで買ってきた」
夏美: 「.......ごめん.......」
春希: 「いいよ、シャワー浴びといで、コーヒー、淹れておくから」
夏美: 「.......うん.......」

―夏美ふらふらと風呂場に向かう

SE:シャワー音
(間)

夏美: 「随分早起きしたね、ていうか春希寝てないんじゃない?」
春希: 「いや、2時間くらい寝たよ、それに今日休みだしこの後寝る。はい、コーヒー」
夏美: 「お、きたきた、あんたのコーヒーだけはほんっと大好きだわ。あー.......美味しい~.......ふぅ.......」
春希: 「だけ、は余計だよ。今日はどうする?このまま家で寝ていってもいいけど」
夏美: 「 帰る、あんたと一緒だと休まらないでしょ、髪乾かしたら帰って寝るわ」
春希: 「そっか.......残念.......」
夏美: 「あんたのそういうとこズルいわ.......」
春希: 「ん?」
夏美: 「何でもない、ドライヤー貸して」

SE:ドライヤー音
SE:コンパクトなど化粧品のフタを閉じるぱちぱちという音
SE:衣擦れ

(間)

夏美: 「じゃあね、コーヒーごちそうさま」
春希: 「おう、また来てね、いつでも御馳走するから」
夏美: 「それはどうかなぁ?」

―春希、笑いながら

春希: 「地味に傷つく」

―夏美後ろ手に手を振りながら

夏美: 「はいはい、じゃあねぇ」

SE:階段の音

春希: 「それはどうかな.......か。結構.......しんどいなぁ.......」

SE:扉を閉める音
―春希は玄関ドアによりかかりながら思う。

春希M: 夏美はどんな気持ちで俺の部屋に来るんだろう。夏美をこの部屋で抱きしめるとき、背中に回される彼女の腕。俺が強く強く抱きしめるほど、俺の背中に回される彼女の腕は、弱く弱く背中を撫でる、まるで宥めるように。きっと、拒まれている。なのに理由をつけては俺と逢ってくれる。この関係が何なのか、俺にはわからない。だけど俺の気持ちはたった一つ、夏美を愛している。

SE:鍵を閉める音

春希: 「さてっと、さすがに寝るか.......っとやっべ、あいつスマホ忘れてってるし。はぁ.......仕方ない、届けるか。追いつけるかな.......」

SE:扉を閉める音
SE:階段の音

(間)

冬子M: これは偶然なのだろうか、それとも、なにか運命のようなものなのか、家に帰って、寝て起きて、声出しのために起動したPCが吐き出した一件の通知。とある音楽制作会社からのお誘いのメール。若いころこそ喜んでいたものの、話を聞いてみれば誰かの作った詩を、誰かの作った曲に乗せて、ただ歌うだけ。けれどこのメールは、差出人としてメールの冒頭に書かれたのは。
秋也M: 平素よりお世話になっております。この度Web上で活動をされておりますTokko様に於かれましては、大変な人気を博している旨僭越ながら伺っております。つきましてはTokko様のメジャーでの活動を前提に、芸能事務所(株)NEXT STAGEへのご参加の要請、および弊社にてTokko様の楽曲のプロデュースを行わせていただきたく、ご連絡させていただいた所存でございます。突然のご連絡大変恐縮ではございますが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
冬子: 「秋也君.......」

ー物憂げに画面の文字を撫でる。

SE:TEL着信音

冬子: 「わわっ!びっくりするって!.......ハル君?.......?なんだろう.......」

SE:ボタンを押す音、ピ!など

夏美TEL: 「冬子!どうしよう!ハルキが!ハルキがっ!」
冬子: 「え!なっちー⁉どうしたの!?」
夏美TEL: 「ハルキが死んじゃう、ハルキがぁ.......」
冬子: 「夏美落ち着いて!今どこにいるの?」
夏美TEL: 「わかんない、えと、わかんないよっ!えっと、えっと.......昨日別れたあたり」

ー夏美電話越しに泣き続ける

冬子: 「わかった、すぐ行くね.......夏美! しっかりして!」
夏美TEL: 「.......グスッ.......」
冬子: 「ハル君が、どうしたの?」
夏美TEL: 「からまれてた.......あたしを.......助けようとして、でも二人相手だったから.......いっぱい殴られて.......返事.......しないの.......血も出てる.......」
冬子: 「落ち着いて、救急車呼んでから行くね、殴ったやつらは?」
夏美TEL: 「わかんない.......ハルキが.......ぐったりしたのみて、逃げた.......」
冬子: 「わかった、じゃあ警察も呼んでおくから.......なっちー、落ち着いて、ハル君息はしてる?」
夏美TEL: 「うん.......ぐすっ.......うん、してると思う」
冬子: 「落ち着いて、すぐ行くからね、じゃあ、切るよ」

SE:走る音
SE:扉を閉める音
SE:階段の音

 (間)

―ハルキ処置中、入院予定の病室前にて冬子と夏美待機中
SE:走る音

秋也: 「おい、ハルキは大丈夫か?」
冬子: 「あ、秋也君、うん、一応命に別状はないって、血を吐いてたのも内臓じゃなくて口からの出血だったから、相手が酔っ払いで力が乗ってなかったのが幸いだったろうって」
秋也: 「そうか、それで殴ったやつらは?」
冬子: 「近くの交番に自首したって、大事にはなってないし、今後どうするかはこれから相談」
秋也: 「わかった、もし何か事を構えるときは、俺が知り合いの弁護士を紹介する。お前も大丈夫か?夏美」
夏美: 「うん.......」
秋也: 「大丈夫そうじゃねえな」
夏美: 「うぅん、大丈夫、ちょっと疲れただけ。.......っていうか、ハルキが生きててほっとした」
冬子: 「うん、それは私もだよ、大丈夫、夏美のせいでもないんだし」
夏美: 「.......取り乱してごめんね、トーコ。助かった」
冬子: 「うん、大丈夫」

SE:カートを押すような音

冬子: 「あ、戻ってきたみたいだよ」

ー三人は息をのむ
―命に別条がないとはいえ、顔はほぼ包帯とガーゼで覆われ、病衣から除く胴体にも、 分厚く包帯がまかれている。

秋也: 「全然大丈夫そうに見えねぇな」
夏美: 「.......」
冬子:「ん、私先生の話、聞いてくるね」

SE:足音

(間)

冬子: 「とりあえず命に別状はないけど、全身に結構打撲を受けてるから今夜は熱が上がるかもって。レントゲンとかでは異状ないけど、場合によっては容体が悪化することもあるから、出来たらだれか付き添いで宿泊してほしいみたい」
夏美: 「私が残る」
秋也: 「お前はやめとけ、鏡見て来い、ひどい顔してるぞ。昨日もろくに寝てないんだろ?」

―被せて

夏美: 「残りたいの」
秋也: 「っ!.......」
冬子: 「.......わかった、じゃあなっちー、部屋の鍵貸して。着替えとか、いろいろ持ってきてあげる」
夏美: 「.......ありがとう、これ.......お願い、クローゼットの上段におっきいバッグあるはずだから、他は遊びに来てくれた時と変わらない」
冬子: 「うん、了解、秋也君車だよね?ごめんだけど乗せてってもらっていい?」
秋也: 「ああ、問題ない、じゃあ.......さっさと行ってくるか。夏美、お前も戻ってくるまで少しは休んでおけよ?」
夏美: 「.......」
秋也: 「.......ったく!」

SE:遠ざかる足音x2

ーしばらく後、冬子と秋也が取ってきた宿泊用品を受け取り、ほどなくして夏美は春希のベッドにもたれて眠りに落ちた。

(間)

―病室にて春希熱にうなされ始める。

春希: 「う.......ん.......つみ.......なつみ.......」
夏美: 「ん.......」
春希: 「夏美.......な.......つみ.......」
夏美: 「っ!春希!」

―夏美を探すように手をフラフラと動かしながら

春希: 「うぅ.......夏美.......大丈夫.......夏美.......」

―夏美は春希の手をつかむ

夏美: 「大丈夫、あたしだよ、いるよ!.......すごい熱.......ナースコール.......」

―夏美がナースコールに伸ばした手を春希がつかむ

夏美: 「ハルキ!?」
春希: 「まっ.......て、いいから、このまま.......手を.......」
夏美: 「.......」
春希: 「ありがとう.......落ち着く.......」
夏美:「ヴァカ.......」
春希:「はぁ.......はぁ.......ひどいな.......はは.......」
夏美:「ヴァカ.......ヴァカ.......ヴァカ.......ヴァカ.......」
春希:「はは、言い.......すぎ.......」
夏美:「でもよかった、アンタが助けてくれた時.......」
春希:「はぁ.......はぁ.......なに.......?」

ー夏美無理矢理意地悪に笑って

夏美:「なんでもない、てっか、さすがよね、女と見たらだれでも助けてくれるんだもんね、モテるはずだわ。寝るのだって私じゃなくたっていいのに、抱きしめてくれるしね」

ー春希被せて

春希: 「誰だって.......いいわけじゃない!.......誰とだって.......寝るわけでも.......ない!.......はぁ.......はぁ.......俺はお前が.......ずっとずっと好きで.......何度も.......気持ち.......伝えたのに冗談だって.......俺のこと見て..............くれなて.......はぁ.......はぁ.......でもお前に俺を見てほしくて!.......だからバカもすんだよ!.......お前以外の女なんて.......考られないんだよ!」

ー夏美ぽろぽろと泣きだす

夏美: 「私だって春希のことが好きだよ、自分でだってどうしていいかわからない!もう10年だよ?あんたとの関係!.......本当は.......本当は.......離れられないのは.......あたし.......あんたのことどんなに好きだって、どんなに望んだって!私は!子供を............................産めない..............それを知られたら.......もうあんたに好きって言ってもらえないんじゃないかって.......どうしようもなく.......怖かったの.......」
春希:「.......ヴァカは.......おまえじゃん.......」
夏美:「なによ」
春希:「俺が.......好きなのは.......好きな.......だけ.......」
夏美:「.......」
春希:「俺が.......ずっと.......大事にしてた.......好きな気持ち.......」
夏美:「.......」
春希:「.......信じて.......」

(間)

春希: 「マスターどうもです、席二つ空いてますか?」

― 春希の後ろの秋也を見やりながら。

マスター: 「いらっしゃいませ、やあ春希君、デート、ではないのですね?」
秋也: 「お前人のお気に入りを不純な目的に使ってんなよ」
春希: 「えー、いいじゃん、それに不純な目的できたことは、ない!マスター、俺ソーダでお願いします」
秋也: 「10年以上も幼馴染と組んず解れつしながら女をとっかえひっかえしている男のセリフかね、夏美もよくお前なんかと一緒にいようと思うわ。フォアローゼスのブラックラベルダブル、ロックで、あとコイーバ 、ランセロス」
春希: 「それなんだけどさ、俺夏美と結婚することにしたわ」
秋也: 「へぇ.......結婚ね.......おめでとう.......」
春希: 「意外とリアクション薄いのな」
秋也: 「まぁおれは結婚に対してそれほどいいイメージも持ってないし、一度失敗してるしな。ってこれからってやつに言うことじゃねぇが。とうとう子供でもできちまったか?」
春希: 「いや、それなんだけどさ」
秋也: 「なんだよ?」
春希: 「あいつ、子供出来ない体らしいんだわ」
秋也: 「ふぅん.......?で?結婚を悩んでるって話か?」
春希:「いや、迷いは一切ない、つか、もっと驚くだろ普通」
秋也:「別に大して珍しい話でもない、いちいち驚くことでもないだろ」
春希:「そんなもんかねぇ.......つかさ、お前はお前でとこちゃんとどうなんだよ」
秋也:「なんでそこであいつの名前が出てくるんだよ、別になんもねーよ」
春希:「なんもねーってお前さ、とこちゃんお前のこと好きだって気付いてないわけじゃないだろ?白々しく知らんふりしてるけどさ」
秋也:「うるせえよ」
春希:「離婚してもう結構経つだろ?つかお前がよくわからん大学の同期と結婚したのも驚いたけどさ、とこちゃん長いことお前のこと好きなんだし、なんだかんだでお前のこと気遣って何も踏み込まずそばにいてくれてんだから、少しは目を向けてみろよ」
秋也: 「.......うるせえってんだよ.....................はぁ.......まったく、俺がお前に説教食らうなんて、明日は槍でも降るかね」
春希: 「そうか?俺たち二人の時は昔っからこうじゃん、お前人数多いと頭も口も回るから強いけどさ、結構自分の意見押し殺しまくってるしぶれっぶれじゃん」
秋也: 「.......」
春希: 「だから4人では飲んでも、俺とサシでは来なかっただろ。最初の結婚だって、自分の気持ちっていうより、相手に求められるままだったように見えたけどね、俺には」
秋也: 「.......半分は合ってるが半分違うな、俺は、俺自身のことがどうしようもなく可愛いのさ。だから相手の望みを満足させたら、いつか俺のことを愛してくれるんじゃないか、そういう気持ちで相手の求めに従う、別に押し殺してるわけじゃない」
春希: 「それさ、なんで自分より相手が先なわけ?」
秋也: 「なに?」
春希: 「だってさ、相手がお前に求めるものがあるように、お前にだって求めるものってあるだろ?どっちが先かなんてないじゃん、お互いに自分の中身見せ合って、そうして合う相手見つけるもんじゃないの?自分の形を変えるのは楽かもしれないけど、壊れるくらい変えるのは違うと思うなー.......と、マスター、ソーダ飽きたから俺でも飲めそうなカクテルありません?」
秋也M: うまい言い返しが思いつかなかった。ずっと自分自身に対してあった違和感、春希の言葉はそれをこれ以上ないほど正しく言い表していたからだ。腐っても、幼馴染ということか。
マスター:「そうですねぇ、春希君にはロングカクテルでも少し内容を変えてアルコールを緩めたものがいいかもしれませんね」

―被せて

秋也:「マスターこの馬鹿にラスティネイル」

―マスター、秋也の顔をちらりとのぞき

マスター:「かしこまりました」
春希:「お、弱いやつ?」
秋也:「違う、とっとと潰れて寝ちまえ」
春希:「うぇ!?いや、今日は俺の驕りだったろ.......あ、すいません、ありがとうございます」
秋也:「黙って飲め」
春希:「.......お、強いけど甘くて飲みやすいな、でもこれ全部行ったら結構効くなぁ.......」
秋也:「.......」

(間)

―春希寝落ちている。

マスター:「秋也君も素直じゃないですね」
秋也:「何が?」
マスター:「お酒に頼らず、言葉でお礼を言うのも時にはいいことですよ、君のそれは粋を通り越して野暮です」
秋也:「別にそんなんじゃないよ、ただの快気祝いと、結婚祝い。こいつ意外と頑固でな、こうでもしなきゃ受け取らないのさ」
マスター:「.......そうですか、それは、難儀なお友だちですね」

ー葉巻の煙を口の中で少し遊ばせながら春希の寝顔を見て煙を吐き、笑いながら

秋也:「あぁ.......まったく最悪なやつらだ」

(間)

冬子M:私は秋也君のメールの誘いを受けることにした。どういう形であれ、きっとこの誘いを断れば、私は後悔するから。
マスター:「いらっしゃいませ、おや、珍しいですね、秋也君はこちらですよ」

ー秋也、ボックス席で葉巻をふかしている。

冬子:「.......秋也君」
秋也:「冬子?珍しいな、この店、お前もたまに来てるのか?」
冬子:「うぅん?ちがうよ」
秋也:「そうか.......」
冬子:「一緒していい?」
秋也:「いや、今日は.......今人を待っていてな」
冬子:「そっか、どんな人?」
秋也:「仕事の関係だ、話せない」
冬子:「そっか.......」

―冬子一つ深呼吸をする。

冬子:「はじめまして、メールいただきましてありがとうございました、Tokkoと申します」
秋也:「何を.......?いや.......お前が?」
冬子:「うん、私がTokko、秋也さんのメール拝見いたしました。お話、お受けいたします」
秋也:「.......」
冬子:「よろしくお願いいたします」
秋也:「ありがとうございます.......よろしく.......おねがいします」
冬子:「ふふ、思ったより驚かないんだね」
秋也:「.......いや.......驚いた、お前があんな歌を歌ってるとは思わなかったからな」
冬子:「そっか、でも私秋也君からメール来て嬉しかったよ」
秋也:「.......」
冬子:「秋也君からのメールだったから、受けた。私に秋也君の歌を歌わせてほしいな」
秋也:「あぁ、わかった」
冬子:「うん、ありがとう」
秋也M:声を掛けた相手が幼馴染の冬子だということには、少なからず驚いた。そして、彼女の歌を改めて聞くと、俺たち四人の関係や葛藤を歌にしていたことに気付いた。特に、冬子の葛藤に。だが俺は、彼女の気持ちにこたえることは出来ない、怖いのだ、どうしようもなく。

(間)

ー後日二人はスタジオで録音を開始する。

冬子:「送ってくれたの聴いてみたけど、結構アップテンポだね~」
秋也:「お前の声を考えるとな、太い音を重ねるよりは、こういう曲の方が受けると思う」
冬子:「そっか、一応練習もしてきたけど、あんまりやったことない感じだからうまく歌えるかな?」
秋也:「合うと思うぞ」
冬子:「わかった、じゃあ、歌ってみるね」

ー冬子歌う:曲は任せますがTomorrowとかをイメージしてます。

秋也:「.......なんか違うな.......」
冬子:「そう?」
秋也:「迫力がない」
冬子:「秋也君は、どんな私を想像して作ってくれたの?この曲」
秋也:「.......」
冬子:「私の今までの曲、聴いた?」
秋也:「聴いた。けどあんなのお前の声には合ってない」
冬子:「そう.......そう.......かもしれないね」
秋也:「.......」
冬子:「秋也君も、そう思うの?」
秋也:「っ!?.......」
冬子:「この曲、秋也君が書いてくれたのでも、作ってくれたのでも、ないよね」
秋也:「.......俺が書いて俺が作った曲だ」
冬子:「嘘」
秋也:「嘘じゃない!」
冬子:「.......」
秋也:「俺が.......書いて.......俺が.......作った曲だ」
冬子:「それは、私の声を聴いて、だよね?」
秋也:「.......そうだ.......」
冬子:「私は、声だけで歌ってるわけじゃないよ?」
秋也:「解ってる.......」
冬子:「ハル君やなっちー、私自身の.......秋也君への想いを今まで歌ってた」
秋也:「解ってる.......」
冬子:「秋也君からメールが来たとき、嬉しかった」
秋也:「それは」
冬子:「仕事だったとしても、私なら、秋也君のやりたい仕事をさせてあげられるかもしれないって」
秋也:「これが、俺の、やりたい仕事だ」
冬子:「嘘だよ、秋也君は、言葉は冷たいけど、もっと優しい歌詞を書いてくれる人」
秋也:「俺の.......何が解る.......」
冬子:「わかるよ、私は秋也君のことずっと見てきたから」
秋也:「俺はお前のことは見ていない」
冬子:「そんな言葉で私が傷つくと思う?」
秋也:「.......」
冬子:「この歌だって、秋也君の歌じゃない」
秋也:「俺の歌だ!.......これだって俺の歌だ.......」
冬子:「私の声だけを聴いて考えた?」
秋也:「そうだ.......俺にとって、お前が売れることが第一だからな.......」
冬子:「ねぇ、秋也君.......私のこと、見てほしいな。秋也君のパートナーとして、仕事だけじゃない、秋也君の傷を癒してあげられるよう寄り添いたい」
秋也:「何の話.......」

―被せて

冬子:「大事なこと!解ってるでしょう!?」
秋也: 「.......俺は、愛情っていうのがどんなもんなのか、もうわからない。ただずっと4人で、これまでみたいに居心地よく居たかった。そんな気持ちでいるだけの俺が、お前のその気持ちを受け取って、その気持ちを守り切れなかった時に.......あの居心地のいい関係ごとお前を傷つけてしまうのが怖いんだ、だからすまん、お前の気持ちには、応えられない」
冬子: 「応えてほしくも守って欲しくもない、私は秋也君が前の奥さんと別れてから、秋也君を傷つけるのが怖くて言えないまま、気持ちに気付いてもらおうとしてた。でもそんなの違う、拒まれたって、傷つけられたって、私は秋也君を好きだから、秋也君が離れない限り.......ううん、逃げられたってずっと一緒にいるよ」
秋也M: 俺は思わず録音室に入り、冬子を抱きしめていた。この気持ちが何なのかはよくわからない、嬉しいような、悲しいような、後頭部がしびれるような、胸が締め付けられるような。ただ、心地好い。
冬子M : 私はずっと、無邪気な自分、誰にとっても無害な自分でいたかった。気持ちを伝えること、傷つける事、誰かの形を変えてしまうこと、それを直接自分の手で行うことを恐れた。けど、誰かと生きるっていうことは、誰かの形を変えるということだ、それを押し殺していたから、私の歌は歪で卑屈だったんだ。秋也の体温を感じたいま、私の中にはたくさんの歌が溢れていた。

(間)

マスター: 「おや、4人でいらっしゃるのは随分お久しぶりですね。お待ちしておりました」

BGM:エンディングテーマ

春希M: たぶん俺たちはずっと大人になれていなかった、どんなにたくさんの言葉を交わしたって、どんなにたくさんお互いを傷つけあったって。
夏美M: 自分が痛いこと、自分が辛いこと、自分が悲しいこと、自分が苦しいこと、そんな心の歪さを見せて、受け入れてくれると信じる事。
秋也M: 受け入れて自分の形が変わってしまったとしても、その形にあった誰かがいるということ、そしてそれを恐れず信じる事。
冬子M: 傷つけることを恐れないこと、傷つけて、傷つけられて、殻を壊し合って、そうしてお互いの本当の形を見せ合って。
春希M: そうやって、俺たちは大人になっていく。
夏美M: たぶん、ずっとずっとそうやって進んでいく。
秋也M: 本当の意味で大人になる事なんて、きっとない。
冬子M: だからせめて、一つ一つ大人を演じる練習を重ねるんだ。
秋也: 「最近4人とも忙しくてな、席、4つ空いてる?」
春希: 「俺ソーダで、そういやさ、俺と夏美一緒に暮らすことにしたよ、そうすれば養子ももらえそうでさ」
秋也: 「ウィスキーマック、あとコイーバのシガリロ、へぇ、やっとか、婚姻届け出したのだいぶ前じゃなかったか?」
冬子: 「私ブルーラグーンお願いします、私たちはどうする?秋也君」
夏美: 「このウォッカアイスバーグ?っていうの飲んでみたい、強そう。ってかトーコとアッキーまだ一緒に暮らしてなかったんだね」
マスター: 「かしこまりまりました」

―4人はアドリブやってもいいし、そのままエンディングテーマに任せてもよし

マスターM: 「あの四人はずいぶんと、気持ちのいい飲み方をするようになりましたね」

(間)

マスター: 「また 是非4人で 、お待ちしております」

BGM:エンディングテーマフェードアウト


―――――完―――――

お疲れ様でございました。

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