人材教育を考える:プログラミングスクールって役に立つの?

2020/07/01

技術 考察 雑感 時事 労働

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こんばんは、本日は少し番外編です。

最近多いんですよね、プログラミングスクール。
広告も。

色々なWebサイトを見ていると、未経験から年収一千万超えを謳うプログラミングスクールや情報商材が、インターネット上を跳梁跋扈しています。

これに対して業界に勤める方からも賛否両論ありますが、個人的に思うところもあったので書いてみたいと思います。

プログラミングスクールは何故増えたか

2018年12月に経産省が発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」という文書、そしてその中で登場した2025年の崖というセンセーショナルな表現によってもたらされた、ある種人材ニーズバブルだと私は考えています。
要は、一過性の流行りです。

このようなスクール事業のはやりは遅くとも2,3年以内には一部を除き縮小または廃業するものと思います。

そもそも何故IT系は人材難?

これには日本のIT系を取り巻く環境で発生した、二つの危機が関係しているように感じています。

ITバブルの崩壊

日本のIT系人材の不足の原因を大きく遡れば、1994年頃のから始まった日本のIT化推進政策に遠因を見ることが出来るでしょう。
これは1990年台初頭からアメリカで始まったインターネット・バブルの煽りを受けたこと。
また予てよりの日本自体のバブル崩壊による経済低迷、就職氷河期への対応として、国内産業の拡大を目論んだ国策的なITバブル誘導です。

これにより日本にはIT系の人材が多く生まれ、現在ある楽天やソフトバンクなどの今をときめく有名企業も勃興してきました。

しかし業界が急速に成長したところで、その業界全体の仕事の質が初めから一線級であることなどありえません。
急増する案件、普及途上の通信インフラ、十分に共有知化されていなかったシステム開発のノウハウ、このような悪条件が重なり合っている中で、IT革命の旗印の元様々なモンスターシステムが世に放たれます

それでも今日まで残る企業が生まれたように、世に放たれたモンスターシステムは玉石混合ではありましたし、ハイプ曲線で言うところの黎明期から流行期に至る過程だったと捉えれば一度低迷を見た後に一定水準を取り戻して再成長することは見込むことが出来たでしょう。
しかしそうはならなかった。

日本にとって不運なことに、モンスターシステムたちが社会に出揃い流行期にはいるまさにその頃、ITバブルは終焉を迎えました。
社会の技術的な認知の進行ではなく、経済的な状況変化によって、失望の谷でも本来残るはずだったはずの本質的な価値以下にまでIT投資は行われなくなり、日本のIT産業はまたたく間に縮小したのです。

そんな状況の中、ITバブルに乗った過大な投資を行って開発されたモンスターシステムは、そう簡単に殺すわけにもいかず、しかし新たに予算をかけることは出来ません
かくしてモンスターシステムは十分な改善やメンテナンスが施されることなく、停滞するIT投資の中で小規模で場当たり的な改修を繰り返されます。
そして多くのバグをその中に取り込み、改修の中で肥大化したシステムはいつしか巨大な這い跡を業界の地盤に残しました。

時を同じくしてITバブルの崩壊とともに、IT系人材はその多くが人材整理の憂き目に合い世に溢れました
倒産せずに残ったIT企業も存続するためには、細る設備投資から生まれる小規模で利の悪い案件だとしても受けるしかなく、低待遇な所謂ブラック企業が業界の大半を埋め尽くしました
また低待遇低所得を嫌忌したITエンジニア達は、低い参入障壁から多くの中小企業を生み出し、業界全体のさらなる待遇の悪化を加速しました

かくして「難易度の高い仕事を安い給料で遂行する」というIT系の一般的なイメージが2000年台中盤には日本の社会に深く深く根付き、中小企業の技術者は十分な技術研鑽を出来ないまま扱いも作業員と変わらない、IT土方という風潮が生まれます。

まさに絶望といった様相です。

リーマン・ショック

絶望的なITバブル崩壊の影響を受けつつも、IT専業でない企業では着々と技術を育てている子飼い技術者たちがおり、必ずしもIT土方という言葉はIT業界のエンジニア全体を語る言葉ではありませんでした
ITバブルによる興亡はIT専業の企業に大きなダメージを与え、IT人材の市場流出を招きましたが、その数を減らしながらも企業は根強くIT資産を社内に構築しようとしており、この状況は多くの非IT系企業において内省化要員として技術者を抱え込む機会ともなりました。
これは良くも悪くも業界を問わず日本の産業全体のITリテラシーの向上を望める状況が出来たということを意味したのです。

この根強い動きが今日まで継続していれば、より広い企業や技術者の成長に伴って業界全体が成長することで、日本のIT産業やIT人口はある程度の水準まで回復したかもしれません。
しかし2度目の悪夢が日本のIT業界を襲います。

リーマンブラザーズ証券の破綻によって国際規模で引き起こされた、金融機関の信用縮小。
いわゆるリーマン・ショックです。

リーマン・ショックがダメージを与えた企業はIT系だけでなく様々な産業にわたり、各企業は自社の存続のために、多くの選択と投資を迫られます。
選択と投資、その選択の中で真っ先に槍玉に挙げられたのが、各企業にまだ残っていたIT関連部署だったのです

GAFAなどのようにITサービス自体で収益を上げるのとは異なり、企業内のIT関連部署の行う開発は直接的に収益を上げるものではなく、例えば製品の性能の改善や社員の生産性工場など、その成果は定量的に計測することが難しいものです。
未曾有の金融危機による不況の中、IT専業でない企業にとってはその見えない価値は無価値として扱われました
かくしてITバブルを生き延び、乗り越え、そして着々と育っていた技術者までもが野に放たれます。

結果的に真に必要なシステムの開発、改善、運用を行うための能力を日本の企業の多くが失いました

そして訪れる2025年の崖

ITバブル崩壊によるIT業界全体の縮小および低成長、一度目の危機。
リーマン・ショックによる企業IT事業部の縮小、二度目の危機。

危機は二度訪れ、そして三度訪れます。
モンスターシステムの寿命です。

ITバブル期に作られたモンスターシステムたちは、多くの問題を抱えながらも、2度の危機を乗り切ったエンジニアたちによって維持延命されてきました
企業はそのモンスターの巨大な背に乗り、得られる利益を遥かに超える多大なコストという餌を与えながら、これまで事業を続けてきました。

これらのモンスターシステムも、老朽化、複雑化、そして延命してきたITエンジニアたちの引退により、その軛を外れようとしています。
しかしこれまで書いてきたとおり、例えベテランエンジニアが引退しなかったとしても、そもそも日本にはIT人材が足りないのです。

これが現在の日本の企業の多くが抱える、IT業界の人材難の正体です。

プログラミングスクールの是非

ではプログラミングスクールは、この人材難を解決し得るサービスと成り得るでしょうか。
結論から書けば、成り得ません

全く役に立たないかと言えばそんなことはないのですが、少なくともIT系の業務に必要な技術として、プログラミング(コーディング)は核心的な技術ではないのです。

プログラミングとはエンジンのかけ方

一般的にプログラミングスクール広告が作り上げているイメージとして「未経験から〇〇万!」と言った売り文句があります。
プログラムを書けることが、即ちソフトウェアやシステムを開発することが出来ることと近似した意味だと勘違いさせる売り文句です。

ですが想像してみて下さい、「運転教習でレーシングドライバー!」こんな売り文句の自動車教習所があったとして、あなたはその売り文句を額面通りに信じられますか?
恐らく信じられる方は少ないと思います。
そして私達IT系で糊口をしのいでいる人間が見たとき、「未経験から〇〇万!」という売り文句はこれと同列の誇大な売り文句に見え、多くのエンジニアが嫌悪感を覚えるのです。

一般的にITエンジニアとして働いている人たちにとって、プログラミングは上手かろうが下手だろうが出来て当然です。
自動車の運転にITエンジニアが普段している仕事を例えるとします。
ITエンジニアが普段している仕事ははいわば自動車で走っているという状態、つまりエンジンがかかっていて、目的地へ経路も何種類も考えてあって、関係法令も必要なだけ頭の中に入っている状態です。

プログラミングというのは、エンジンの始動の仕方は知っていますね?といった始動前点検レベルの話です。
始動前点検だけが抜群に漏れのない運転者は、優秀な運転者でしょうか?
そんなことはありませんよね。

ITエンジニアとして高収入を得るということは、この例えに則れば自動車の運転を上手にする、ということです。
つまりプログラミング以外にも、例えば開発内容のリリース先への業界知識や、もちろん法令周りの話、コンピュータの仕組みや情報理論への知識と、それを実践に反映させる能力が必要になるのです。

プログラミングスクール出身者と現職エンジニアの乖離

前半の歴史のお話で述べたとおり、現職のITエンジニアというのは非常に理不尽な状況の中でも仕事をこなし、食いっぱぐれることなくやってきた人たちです。

もちろん現代と合わない考えや技術に凝り固まって、考えを一切変えないエンジニアもいなくはないです(たぶんマトモに開発できていませんが)
ですが基本的に現職にあるのであれば、一定以上の水準の知識や技術を持っているということは間違いないと思います。

つまり日常的に車をぶんぶん走らせている人たちです。
そんな人たちの中に、エンジンのかけ方は知っています!というだけのドライバーが入っていってついて行けるでしょうか?
中にはついて行ける人もいるかもしれませんが、大抵の人は置いていかれることが容易に想像つきますよね。

これとまさに同じことで、プログラミングの知識だけでは企業プログラマレベルのプログラムは作成することは出来ません
企業が作成するプログラムは、基本的なプログラムの知識の他に、明文化された標準規格から暗黙的な決めごとから口伝でのみ伝わる仕様まで、業界ごとの標準的な設計の仕方、組み方というものがあります
企業でITエンジニアとして働く、特に新卒でなく中途で働くということは、プログラミングスキル+αでこの部分の知識を持って初めてスタートラインに立てるということす。
そしてITエンジニアの言う技術とは大量の知識と、この知識をプログラムに反映してソフトウェアやシステムを作成する能力のことです。

未経験プログラミングスクール出身者が〇〇万円稼ぐということが、どれほど無謀な挑戦かは想像に難くないことかと思います。

プログラミングスクール卒業からエンジニアになるために

大前提として、プログラミングスクールを卒業したということを過信しないように気をつけて下さい。

これは私自身大学生などに説明する際によく言うことですが、企業プログラミングはプログラミングスキル+αがどうしても必要と成りますし、事業が連続してきた関係上どうしても最新のプログラミングテクニックではなく、旧来のプログラミングテクニックを使うことが正である場合が圧倒的に多いです。
「きらびやかな最新テクニックが正義で、レガシーなテクニックを使用している企業は悪、そんな文化叩き直してやる!」と勘違いしてしまうと、誰も教育してくれないばかりか仕事自体振られなくなってしまいます。

また、収入を得ることだけをモチベーションとして働くのもオススメしません。

実力主義、成果主義的なイメージを持たれるIT業界ですが、本質的には前半で述べた社会情勢と相まって殆どの会社が低待遇且つ時間に対して報酬が支払われる構造で成り立っています。
加えて玄孫受け上等なレベルの超多重下請け構造ですので、基本的に入社初期数プロジェクトは労働基準法ぶっちぎりの安い給料で勉強をする程度の覚悟は必要です。
また、IT業界で給料を上げるというのは、「一箇所に長く勤めること」ではありません。
十分に実績を上げた上で、より高く買ってくれるところに実績を根拠に売り込み転職するか、エンジニアからマネージャーにキャリアパスを切り替えて社内組織に食い込んでいくしか道はありません。
収入をモチベーションにしてしまうと、この長大な道のりの半ばで必ず心が折れます

それでもエンジニアを目指すのであれば、目指す業界の人たちと交流を持ち、しっかりと業界研究を行い、プログラミング以外の知識を磨きましょう。
特に業界知識(ドメイン知識)は実績を上げるためには必須です。

これらをクリアしてITの世界に踏み込めば、大なり小なり(大なり大なり?)の苦労はあるものの、それをこなす中で自身の能力や目に見える実績が上がっていくことにきっと喜びを感じられるはずです(ようこそブラックITの世界へ)
そうして仕事をこなしていけたとき、「卒業して〇〇万円!」を達成したエンジニアになれることでしょう。

さいごに

私は昨今のプログラミングスクール出身者というよりは、プログラミングスクールという業態を取っている企業に多大な問題があると考えています。
それは前半で書いたような社会情勢から生まれたエンジニア崩れや、社会人経験の乏しい、または(クソながらも社会で成り立っている)企業に馴染めなかった若年経営者が立ち上げたサービスが多いから、無理からぬことだとも思っています。

私自信、日頃の業務を行う中で設計開発に加えて人材教育や業務の標準化といった仕事を、複数の企業に渡って7年以上やってきていますから、正直なところプログラミングスクール出身者に対しては否定的な感情は持っていません。
正直、入ってから育てればいいですから。

また、実際のところ業務を行う上では、IT系が人材不足であるのは本当に間違いのない事実ですので、むしろ最近忙しいのでエンジニアとして働ける人が一人でも増えて応募者が増えてくれると嬉しいとすら思っています受かるかどうかは別として

プログラミングスクール各サービスにおいては、業界研究を十分に行ってプログラミング+αの知識をしっかりと出身エンジニアに与えてほしいですし、出身者の方にもエンジニアとして稼ぐために必要なことをしっかりと見直してほしいです。
そしてIT業界のブラックな普段の仕事が少しでも楽になる時代が来てくれれば嬉しい限りです

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