人材教育を考える:資質粉砕型教育

2020/06/16

考察 雑感 労働

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今回から何回かに渡って、人材教育を行う上で普段考えていることを記事にしていきたいと思います。

第一回目は私が最も問題があると考えている教育手法、”資質粉砕型教育”についてです。
この教育が何故起こるか、どのような特徴がありどのような人材に育ってしまうのか、それを避けるための方針について書いていきたいと思います。

人材教育を考える:資質粉砕型教育

通常、企業に就職すると、誰しもがその企業で行っている業務を遂行するのに必要な知識やルール、新卒であればビジネスマナーに関する教育を受けます。

これはIT系に限らずどんな業界のどの企業でもそうでしょう。
その中で、業務知識に関する教育は多くの場合、実際の現場で経験を積み、ある程度実績を信頼された中堅以上の社員が行うことが多くなります。
これが一般的な対応だと思うのですが、実はこの一般的な対応に落とし穴があります。

業務をこなすことに特化した人材が必ずしも教育に適正を示すとは限らず、適切な教育を施せば十分に業務投入可能だった人材の資質を粉砕してしまうのです。
これが資質粉砕型教育です。

このようなことが起こるのには大きく二つの要因があると私は考えています。

教育は無法地帯

私の偏見かもしれませんが、一般的な企業では社員を実現場でどのように教育するかは大抵の場合、属人化してしまう傾向が強いです。
何を教えるか、という部分は一定規模以上の企業であれば体系化されている場合もあります。
しかし、どのように教えるかという部分は明文化が難しいとされ、教育者に任される場合がほとんどです。

つまり、非教育者を尊重するか、圧迫するかということすら野放図な、いわば無法地帯状態です。

これにより教育に関する方法論が十分に醸成されないことが、一つ目の大きな要因でしょう。

人間はプライドを持つ生き物

人は誰しも単一の業界やもっと狭ければ企業で10年も働くと、大抵の方は多くの仕事で実績を上げ、成功体験を積んでいます。
成功体験はその人のプライドの根拠となります。
つまり社員教育を行い得る中堅以上の社員というのは、大抵の場合自身の能力に対して大なり小なりプライドを持つことになります。

プライドを持つことは悪いことではありません、むしろプライドを持った社員は業務に妥協なく取り組む場合のほうが遥かに多いでしょう。
しかし業務で培ったプライドは、それを培った業務にだけ振り向けるべきものだということを忘れてはいけません。

この原則を忘れた社員が教育者となったとき、被教育者の資質を無視して自身の成功体験や方法論を押し付けることが教育であるとの勘違いが生まれます。

これが一つめの大きな要因です。

資質粉砕型教育の特徴

社員教育の属人化という構造的な問題と、プライドの振り向け先を間違った社員が組み合わさり、恐らくは多くの企業においては意図の外でありながら、日夜様々な企業で資質粉砕型教育が行われています。
どのような教育手法が当たるかを説明するため、ここでは資質粉砕型教育の特徴をについて書いていきます。

被教育者を叱ることに重点が置かれる

資質粉砕型教育は「叱る教育」という誤りの典型例の一つと言えます。

人材教育においてよく聞くフレーズに、「褒る教育、叱る教育」というものがあります。
二元論的に語られることの多いフレーズですが、こと人材教育に限って言えばこのフレーズはどちらも誤りです。

褒める、叱る、という言葉は言い換えると、正さを評価する、誤りを指弾する、と言えるでしょう。
こう言い変えると人材教育上、褒める、叱るというフレーズを二元論化してどちらかに偏ることが如何に危険な方針か解っていただけると思います。

「叱る教育」とは誤りの指弾しかしないのです。

このような方針で人材教育を行ってしまうとどうなるか想像してみましょう。

被教育者の行動へは、教育者からの正しさへの評価が行われず、誤りへの指弾のみが行われます。
被教育者は正しい方法を判断する方法がなく、取るべき行動がわかりません。
また、初めのうちは自発的に考え調べるなどして試行錯誤をしますが、誤るたびに指弾されます。

つまり適応するには、行動指針を示されることを待ち、自発的に業務を行ったり提案したりすることを避ける必要に迫られます。
これはまさしく言われたことしかやらないということです。

言われたことしかやらないのであれば、業務における工夫や工夫に伴う成功体験など積めようはずもありません。
成功体験が積めなければ、被教育者の自信は当然ながら育ちません。
行動に自信がなければ自発的自主的に業務に携わることは出来ません。

その結果被教育者の自信とそこから来る自主性が粉砕されます。

教育者の提示手法以外の業務手法を認めない

ひとつめの内容に近い内容ではありますが、これもまた資質粉砕型教育の特徴です。

人材教育に置いて教育を受ける側の人も人間ですから、当然教育者が知らず、被教育者が知っている知識というものが必ず存在します。
業務を遂行する上でこうした知識に基づき提案される手法は、当然人により異なってくる部分が生まれます。
そして時にそれは教育者の提示した手法よりも論理的に正しい場合もあるのです。

資質粉砕型教育が横行している企業ではこのような事実は決して顧みられることはありません。

もちろん、企業には文化や既に出来上がった手法にも経緯がありますから、被教育者の提案する手法を受け入れられるかどうかは別の話ではありますが、それであれば納得するに足る十分な説明を行えば良いだけの話なのです。
この説明を十分にせずに提案を棄却することは単純な否定となんら変わりません。

また、企業としての方針にまで達さない、たとえばプロジェクトごとの業務手順や担当者の現場での業務遂行手法というのに対する提案も往々にしてあります。
このような手法まで全て教育者が教えることが正しいという教え方をしてしまうと、被教育者に提案が無意味という認識が出来てしまいます。
その結果次第に成功体験につながるかもしれない提案への意欲、資質、機会が粉砕されてしまいます。

本質と外れた指摘(指弾)が繰り返される

まずは例として、何らかの資料をレビューする場面を考えてみましょう。
それは例えば新しい仕事の企画書だったとします。

このようなレビューの際に見るべき観点は、本来そこに書かれている企画が実現可能か、情報や考慮に漏れがないか、これらが本質的なレビューの内容です。
しかし資質粉砕型教育では例えば
「ここ誤字だから情報が伝わらない」
「ここの体裁が良くないから資料になっていない」
といった発言から始まります。

当然ながらこのような本質とずれた内容に時間を割いてしまうと、本質的な情報に対する検証が著しく薄くなります。
教育途上のメンバーの作成した企画書の内容を薄いレビューで提出すれば、どんなに誤字脱字が少なく美しい体裁の資料であっても、大抵の場合は突き返されて再作成となります。

どのような仕事であっても共通して言えることですが、教育者は被教育者の業務が本質的に何を産み出す業務なのか、しっかりと念頭に置いて教育することは必須です。
そして教育時に評価したり指摘したりする対象は、その本質的な業務成果に直結するものを最重視して時間をかけるべきです。
本質的な内容と外れる指摘は一々口頭やレビューの場で丁寧にやる必要はありません。むしろ害悪ですので、手書きのメモでも何でも良いので羅列だけして本人に渡しましょう。

本質と外れた表面的な部分にばかり時間をかけることを繰り返すと、被教育者は十分な成果を上げることが出来ません。
また、繰り返し指弾を受けることで次第に自身の能力にまで疑問を持ち始めます。
その結果問題が別にある場合であっても、自身の能力を理由にしてしまう思考の癖がつき、自分で考えるということを放棄しだします。

このような状態に陥ると、努力すべき内容の判別すら被教育者自身では難しくなり、能力の醸成すらままならなくなります。

被教育者への人格否定が正当化される 

まず前置きとして、人格否定は教育ではなくハラスメントです。
どんな理由があっても正当化される行為ではないので改めましょう。

資質どころか人間としての存在を粉砕しかねない名実ともに犯罪です。

しかし実際のところは、人格否定は横行しています。
私自身が受けたこともあります。
しかし、それよりも肌感覚として、私が再教育や中途入社者の教育を担当した方は漏れなく、何らかのハラスメントに当たる発言を受けたお話をされます。

人材教育を行う場合、そこに教育者と被教育者という役割が出来ます。

言い換えれば、教育者が優位な人間関係が築かれやすい環境が出来てしまうのです。
しかし教育者と被教育者の間に存在する優劣関係は、業務上という一面に限ったものです。
業務上の枠を超えて相手より優位であると教育者が勘違い(例えば業務外の知識、考え方、それこそ人格等を)してしまうと、業務上の指摘とそれ以外の領域での否定が混同し始めます。

次の項にも絡みますが、人材教育を行う上でこうした事態を防ぐため、教育者自身が「教育者が被教育者より優れるのは教育対象業務についてのみ」という立場を堅持しなければなりません。

これが出来ないのであれば、そもそも教育という業務を遂行する能力が不足していますので、人の教育に当たる前に自身が教育業務についての教育を受けるべきでしょう。

教育者に対する周囲からの指摘がないか過度に肯定的

教育者が優位な人間関係が築かれやすい環境が、更に会社組織として固定化されてくると、人材教育どころの話ではなくなります。

教育に当たる要員というのは中堅以上の社員が多く、同時にそうした社員は周囲からの仕事に対する信頼を得ている場合が多いですし、これ自体は問題ありません。
しかし、業務が出来る人が言ったことだからその言葉が全て正しいと考えてしまうのは問題です。

たとえば、
「やる気がないから覚えが悪い」
このような主観的な発言がしばしば見られ、またこの発言を咎めず共感する組織に教育は不可能です。

通常であれば人材教育はいつまでに何が出来るようにするか計画を立てて行います。
それを観測するためのチェックポイントも用意します。

「覚えの良し悪し」は計画に対する進捗やチェックポイントでの成果物の品質への定量的な評価です。
また、原因もその都度の要因分析によって導き出される定性的な文言に終止しますので、「やる気のあるなし」は話題の遡上にすら上がらないのが本来です。

ですから本来であれば、「やる気がない」、「覚えが悪い」という主観的評価がまかり通る時点で業務として破綻していますので、論外中の論外です。
このような発言が公私問わずまかり通っている組織は、たとえどんなに取り繕おうと、主観や感情といった非合理的な思考を根底に、理論や科学を都合よく後付していると考えられます。
また、そうであるにも関わらず教育が正しく成果を上げないのは理論や科学、そして被教育者に問題があるという考え方にとらわれています。

教育者が被教育者に主観的な考え方や個人的な見解を元に発言していることを、これまで業務を十分に遂行してきた人だからと指摘を一切することなく任せてしまっているのであれば、それは組織のあり方や人材育成業務の遂行の仕方として問題があります。
また、このような傾向が見られる組織は、世間、業界、法律から逸脱していても自浄作用が働きにくくなり、傾向はどんどん固定化されていきます。
結果的に、被教育者の成長機会を奪うばかりでなく、若い人を雇ってもすぐ辞めてしまい、自社組織の成長可能性までも粉砕してしまします。

資質粉砕型教育の問題点

企業利益の毀損

資質粉砕型教育は、頑張って好意的な取り方をすれば、ダメ出しに強いタイプの人材を選別する教育とも言えるかもしれません。
これは日本に労働者が溢れていた時期であれば、意味のある教育手法だったと言えなくもないかもしれません。
しかし近年の人材難の状況に際して言えば全くの無意味どころか、本来であれば構造的に防止すべき教育手法です。

本来人材教育は、自社が採用した人員に業務を遂行するための知識を与え、配属後の業務を円滑に行わせることが目的です。
また、人材採用の原則として採用された時点で、人格や資質面での業務遂行能力は持っていることが見込まれています。
(逆に見込まれていない人が採用されてくるならそれは教育以前の問題です)
つまり、その人本来の人格や資質まで教育によって変化させようとする必要はありません。

また次回の記事で触れますが、このような教育によって粉砕された資質は、取り戻させることに非常な困難が伴います。

本来発揮されていたはずの能力を破壊して見込まれた利益を既存するばかりでなく、再教育のコストまで発生させている時点で、資質粉砕型教育は企業の利益を大きく毀損しているのです。

人道的問題

ここまで書いてきた内容から、知識のある方はお気づきだと思いますが、資質粉砕型教育は洗脳の手法の一部と合致します。

つまり、思想の徹底した破壊を行って、破壊後の懐柔により思想の再構築をするという洗脳の一般的な手順の内、前段の思想の徹底した破壊に類似した行為を行っています。
こう書くと、このような教育が如何に人間の尊厳を踏みにじった、危険な手法であるか、ということは理解に難くありません。

もっとも、それ以前に資質粉砕型教育は教育にかこつけたハラスメントです。
訴えられる前に見直しましょう。

さいごに

今回は資質粉砕型教育について書きました。

私はこれまで業務に関する教育をしてきた中で、このような最低の教育を受けて資質粉砕された方の現場投入を行ったことが複数回あります。
資質粉砕型教育の被害者に対する再教育は、教育側にも非常な困難と根気を求められるものです。
一つはそれを防げたらという思いから、もう一つは私自身がこのような教育を行わないための自戒からブログ記事を書きました。

皆様も誰かを教える際におかれましては、被教育者がよりよく仕事をしていけるようご注意いただければ幸いです。

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