人材教育を考える:資質粉砕された要員の再教育

2020/06/22

技術 考察 雑感 労働

t f B! P L


さて、前回は資質粉砕型教育という教育手法について書きました。

今回は具体的にそのような教育を受けた方を再教育するにはどうすれば良いかという記事です。
主には私がこれまで人を教育してきて、うまく現場への再投入などが叶った経験に基づく記述です。

資質粉砕型教育被害者の特徴と対策

特徴:主体性が無い

指示を出したことに対して、どうやって指示された業務をこなすのか考える能力が破壊されていますので、業務指示だけでは業務をこなすことが出来ないか成果が不十分となってしまいます。
また、自発的発言がなく業務に対しても消極的です。

対策

初めは業務を指導する側でしっかりと分割し、指示の粒度を1時間単位程度まで細かくしましょう。
それを一度に一つだけ指示することで、まずは業務に対する順序感を醸成します。
主体性をどの程度失っているかにもよりますが、2〜3ヶ月程度のスパンを見て、段々に指示の粒度を荒くしていきます。

また、指示を出す際には実際に指示する業務を自分がやってみせながら、何故そうしたのか説明し、しっかりと手順や考え方をイメージさせましょう。

指示した業務の成果をチェックする際には、初めのうち手順や成果の良し悪しや不備には言及しません。
指示した業務をこなした事実のみを「ありがとう」なり、褒めるなりして業務への抵抗感を取り払います。

指示の粒度を上げる段になって初めて、手順や成果の良し悪しについて、「ここについてはこうするともっと良くなる」といったコメントを徐々に出します。
ただし指摘に終始せず、業務をこなした事実への謝意の表明や論賛はしっかりと続けます。

解説

この特徴は性格だと片付けられている場合が多いですが、よく考えてみて下さい。

その方は自分と同じ企業で働いているのですよね?

就職活動を行って、様々な企業に応募して、就職試験に向けた勉強や就職面接への対策をこなして、その方は入社しているのですよね?

主体性が無いのにそのような複雑な事柄をいくつも連続して、時には並行してこなすことが出来るでしょうか?
出来ませんよね。

要は本来であれば自社の業務をこなすに足る資質を備えていたから、その方は自分と同じ企業で働いているのです。
にもかかわらず主体性が抜け落ちているのであれば、それは元々備わっていなかったというより資質を粉砕されたと考えるほうが妥当です。

このような方は度重なる叱責や発言の否定、時には人格否定により、自身で業務遂行の道筋を考えることに罪悪感、忌避感、抵抗感を持ってしまっている場合がほとんどです。
ですから業務をこなす事が利益を産み出すことであり、それは罪科ではないということをしっかりと刷り込み直すことが必要になります。

なお、このような特徴を持つ人への対応として、「自覚をもたせる」「コスト意識をもたせる」などといった対応論がまかり通っているように感じます。
自身の業務遂行能力が足りないなどの考え方を固着させ、罪悪感を煽るため逆効果ですのでやめましょう。

特徴:業務でのミスを頻発する

業務の結果をチェックした時にミスや抜け漏れが多く、また本人もそれに気づけていない場合が多い場合です。
また会話していてもぼーっとした印象がある、言ったことを覚えていない場合がある場合もこれに該当します。

対策

まず、業務指示を出す際に、その業務を何故やるのかを考えさせます。
たとえば、「なんでだと思う?」という一言を添え、その問いに対する答えを待ちます。

答えが出た際には、その答えがなんであれひとまず否定せずに受け入れるか、受け入れられない内容であっても、「なるほど、そういう考えもあるかもしれないね」など、相手の考えを真剣に聞き取った態度を見せましょう。
そのうえで、「今回のこの業務をやってもらう意図は、こうこうこういうことで」というように説明をくわえます。

次に、意図を理解してもらった上で、意図を実現するために必要な条件を箇条書きにしてもらいます。
これはチェックリストでなくて構いません、業務をこなす上で強く念頭に置いておいてもらえれば良いです。
加えて書けば、チェックリストを埋める作業の手間や手順など、僅かであっても目的の業務の雑音になる手順は初めのうちは排除しておくことが重要です。

これらを行った上で、業務の結果が出てきたならば、最初に業務をこなした事実への謝意の表明や論賛を必ず行います。
そのうえで、チェックした結果ミスや抜け漏れがあった場合、防ぐ方法をその場で本人に、叱責と取られないように口調や表情などは注意しながら問いかけます。

解説

まず、叱責は厳禁です。

ミスや抜け漏れが多い方のパターンの原因としてよく見られるのが、「とにかく業務を早くこなして業務を遂行するストレスから開放されたい」という考え方に陥っている場合です。
そのため本来の「必要十分な品質を備えた成果を期日までに上げる」から必要十分な品質という要素が抜け落ち、「成果を期日までに上げる」になってしまっているのです。

ですからまずこのような特徴が出ている方には、業務自体をストレスと感じる条件付けから開放しつつ、「品質を担保することも期日までにこなす業務である」、という認識を持ってもらいます。
また、対策の通り対応していると大抵の方であれば品質が改善していきますので、品質が改善したことをしっかりと論賛することで、改善を考えること自体も楽しい業務だという条件付けを行います。

特徴:自己保身的な発言が多い

資質粉砕型教育の被害者は、とにかく合理非合理問わず叱責に晒されてきている可能性が高いため、総じて自己保身的な発言がコミュニケーションの主体になってしまっている場合が多いです。
たとえば、仕事ができそうか確認しただけでも「出来るかどうかわかりません」と言った趣旨の発言が繰り返されます。

また、仕事の内容に指摘を行った場合にも、非常に言い訳が多くなります。
これは必死に叱責を回避しようとする癖がついているためです。

対策

まずは相手に自身を信頼させることを第一に業務を行います。

スケジュールに関して指示を出す場合には、実際の期日の少し前に自身への前期日を設定しましょう。
この前期日は相手の成果をレビューして、自身が直しを入れるのが間に合うギリギリに設定します。
そのうえで、間違っても自分が絶対にどうにかする、そしてそのための前期日である、この二点をしっかりと説明して業務を渡します。
注意点として、前期日は過剰に前倒しさせるようなことをしてはいけません。

業務内容に関してで言えば、教育対象が行う業務の内容は大枠で自分もやっておきます。
そのうえで、バックアップ体制を取った上で任せているので誤りがあっても叱責しないことを説明しましょう。

次に何らかの遅れやミスが出た場合には、少し厳しい対応ですが相手の保身を切り捨てます。
理由を話し始めた場合は「理由は必要ない」
過度に謝罪をしてくるようであれば「謝罪は必要ない」

そのうえで、重要なのは業務を進捗させることだということを説明し、対応策を一緒に考え合意を取ります。
遅れであれば、残業時間の利用や期日交渉を行う、そして自分が実際にそれをする。
ミスであれば、自分のバックアップ用の成果物などで補完して対応を取る。
そしてこのような対応を取ることが出来るので、叱責する必要がないこと。
過度にミスに執着せず改善だけを考えることを繰り返し説きます。

解説

この特徴に対しても叱責は厳禁です。

ただし他の特徴とは異なり、保身的発言に関してははっきりと「無価値である」という態度を表しましょう。
このタイプの特徴は適切な対応が取られない場合、自身の業務へのまずさを、生い立ちや社会や会社のせいと決めつける癖につながります。
最悪一切の成長がなくなる危険な特徴です。
その上で、業務に必要なのは遅滞やミスを発生させないことではなく、成果を上げることの一点のみであることを強く意識させます。

特徴によらない共通した対応

小さな成功体験を積重ねさせる

まず、資質粉砕型教育を受けた方の粉砕された資質は、残念なことに二度と元に戻ることはありません。
当該資質を使用した業務そのものに対する不快感の刷り込みが発生し、業務遂行に十分なところまで回復させることが出来たとしても、伸びを期待することはよほどの切っ掛けがない限り不可能です。

ですが、業務遂行に必要な程度までであれば、根気よく業務を分割し、一つ一つこなすことが出来たという事実をその人に刷り込んでいくことで、回復させてやることは可能です。

自身と比較した発言を行わない

教育を担当しているのであれば、相当程度の業務をこなしてきた実績や、それなりに修羅場をくぐり抜けてきたことが伺えます。
しかし、それはあくまで自身の体験や資質に基づくものであり、全く同じことは他人には出来ません。

資質粉砕教育の被害を受けた方というのは、基本的にその方自身の能力に対してマイナスイメージが作り上げられてしまっていますので、例えば「俺もこんなの大変だったわぁ」等の発言は控えたほうが無難です。
下手なこじれ方をすると、「この人は乗り越えられたのに、俺はなんで乗り越えられないんだろう……」という思いに対して「俺もどうにか乗り越えたから、君も乗り越えられるよ」という意味合いの言葉を返し、善意が劣等感を助長するような悪循環に陥ります。

マウントや叱責を意図しての自身との比較発言はもちろん論外ですが、善意からの発言であっても行わないほうが無難でしょう。

常識は存在しないという意識を持つ

仕事をする限り、どの業界にも大なり小なり暗黙の了解というものが存在します。

しかし、これらは暗黙が故に新参者や自分のことに手一杯になっている方には十分に伝わっていないことが多いのです。
ともすれば、業界の常識は世間の非常識なんてことも。

自分が常識だと思っているような内容を教育する場合であっても、教育を受ける側はその常識を知らない可能性は常に意識しながら望みましょう。
それが出来なければ、一見すると出来が悪いと見られがちな資質粉砕型教育の被害者たちと関わるに当たり、彼らを叱責しようという思いが生まれてしまうことになります。

さいごに

私は教育を行う中で叱責を行うことは一切ありませ……あ、嘘、一人だけ叱責しちゃったことあるや(ー_ー;)

ともあれ、個人的には業務は収益が上がれば良いというのが本質で、それ以外はどうでも良いと常々思っています。
そして業務で収益を上げるには人間の力が必要なのです。
叱責を行う暇があれば、問題に当たる解決策の考え方を同じ時間教えるほうが、圧倒的に建設的ではないでしょうか。

資質粉砕型教育は、このような考え方と反する教育手法です。
そしてその被害者は、収益を上げる能力を毀損されています。

私はここに書いたような方針で何人かの再教育を成功させてきました。
出来ればこうした考え方で、みんなが利益を産めるようになれたらと思いますし、もっと効率よく人を導ける方法があれば、誰とでも共有できたら良いなと思います。

Translate

ページビューの合計

注意書き

基本的にごった煮ブログですので、カテゴリから記事を参照していただけると読みやすいかと存じます。

ADBlocker等を使用していると、Twitterやアクセスカウンタが表示されません。

記事を読むには差し支えませんが、情報を参照したい場合には一時例外にしていただけると全てご参照いただけます。

Featured Post

ボイドラDICEの攻略法

QooQ